右手に拳銃、左手にナイフ5



 吸血鬼になって何が不便になったかって言うと、お風呂に入るのが拷問になったことかな。流水は吸血鬼にとって肌をじりじりと焼くものでしかない――んだけど、村でも毎日は無理でもほぼ毎日風呂に入っていた私からすれば入れない方がもっと拷問だ。アーカード兄ちゃんは私を我慢強いとか熱意があるっていうけど、この火傷を辛抱できてるのはひとえに私の本質が日本人だからだ。風呂入りたい。ちょっとくらい表面の細胞が死滅しようともあったかいお湯に浸かってのんびりしたい。その情熱の甲斐あってか――三週間とせずに私は流水をマスターした。もう火傷なんてしないんだぜ!


「うーむ」


 でもなかなか始めと変わり映えしないのが銀だ。毎日持ってるけどやっぱり痛いし熱いし、本当に銀をマスターできるのか不安だ。

 一応私の世話を任されてるらしいセラスねーちゃんがトイレにゲロりに行っちゃったから廊下で待ってたら、紳士用から出てきたアーカード兄ちゃんが私を見つけて目を丸くした。


「どうした、餓鬼。何か悩みでもあるのか」

「うん。――流水はマスターできたけどさ、銀がまだマスターできないから……どうにかならないのかなと思って」

「弱点を理解しろ、それだけだ」


 アーカード兄ちゃんは私の頭をくしゃりと撫でて通り過ぎて行った。弱点を理解しろ、ねぇ……。銀とか流水とか? あとニンニクの匂いとか。

 そういえばトイレの手洗いも流水だ。飲む水も流水だ。体を流れる血液も流水だ。でも私は蛇口からの水で火傷したことはないし水を飲む時火傷したことはないし血流で体が焼かれることもない。でも――風呂だけは違った。思い込みによる、想像妊娠ならぬ想像火傷? それとも蛇口の水と飲み水と血液、この三つと風呂の間にある違いが火傷を引き起こしてるの、か。


「銀――銀!」


 そう言えばアーカード兄ちゃんが何でか貸してくれたこのネックレスは――銀のはず。シャラシャラと擦れ合う音が綺麗なこれは銀だろう。ネックレスは良くて、食器は駄目。手洗いは良くて、お風呂は駄目。共通する違いは? 量……?


「そうだ、量! 大きさだ!」


 風呂は水量が多い。手洗いは少ない。食器は銀が大きい。ネックレスは小さい。少しずつ量を増やして慣れていけば良いのかな、これは。それとも風呂のようにいっきに大量のものに触れるか。より大きい銀となると燭台とか、か。

 たしか燭台なら居間にあったはずだから銀については解決した。要はより大変な方で慣れりゃ良いのだ。


「うっ、うっ……パインちゃーん。すみませんがお水貰って来てくださ、うえぇえっ!」


 だけど今すべきことは――可哀想なセラスねーちゃんにお水を持ってくことだね。













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 殺戮な神父に会った後あたりで考えてます。夢主は真祖ですがまだ幼いので連れてってはもらえません。でもあれに会わなくて良かったね!
09/25.2010

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