振り向けばマジカル3



「あれ」

「――え」


 幻影魔法も認識操作も、思い切り強力に。魔法使いだって私に気付かないぜ☆ というくらいの気持ちで使ったはずが、何で見つかったんだか。


「何で見えるの?」

「あ、あちゃー」


 不自然なほど顔を蒼褪めさせて横を向く茶髪の少年の胸倉をつかみ、ゆっさゆっさと前後に振る。振り過ぎたのか別の意味で顔を青くする少年に気付き手を放せば倒れた。


「物理的ショックで記憶喪失が良いか、それとも理由を説明して忘れる努力を誓いここで別れるか――どっちが良い?」

「なるべくなら後者が良いな」


 変身を解いて少年をそこらへんの喫茶店に引きずりこむ。


「私は――××って呼んで」


 そういえば私の正式な名字って何だったかな。まあ出奔してる身だし別に気にするようなことでもないんだけどね。


「僕は阿倍ノエル」

「んじゃあ阿倍、さっきの理由と原因を言え。唯の人間にしか見えないけどあんたも魔法使いなの?」

「はっきり言う子だね君って」


 明るい場所で見てみれば、なかなか阿倍ノエルは美男だ。キリリとした眉に切れ上がった小気味良い双眸、柔和な表情とくれば女子が放っとかないに違いない。男として人生送って十数年の私からすれば美形憎しだけどね。


「言葉を飾ったところで内容は一緒、それならさっさとゲロってちょうだい」


 ウェイトレスさんが冷やと濡れタオルを持ってきてくれたのに軽く頭を下げ、迫る。


「まあ落ち付いてよ。せっかく喫茶店に入ったんだから何か注文しなきゃ」


 メニューを差し出されたから、チョコレートパフェに決めた。男がチョコパフェ食べてたらなんだか生温かい目で見られるから今の状態は凄く楽。ノエルはコーヒーを注文して、話し出す。


「僕は君の言う通り魔法使いだ――どうして人間に擬態出来てるかは言えないけど。今は家出中でね、阿倍っていうのは偽名だよ」

「へー、そう」


 なんだ、人間にばれたんじゃないなら良いや。それに家出中なら『私』のことを他の人間に話すこともないだろうし。魔女っ子になったら毎回一人ってのは寂しいかなって思ってたからちょうど良い。相手になってもらおう。


「興味、ないの?」

「へ、何に」

「だって僕は家出してるんだよ」


 言いつけるとでも思ったのか、阿倍は切羽詰まった顔で迫ってきた。ちょっと、男に迫られても嬉しくない――って、そう言えば今私は女なんだった。これを喜ぶべき性別なんだった……嬉しく、なれそうにないんだけど。


「それがどうしたの、私んちなんて家族総出で魔法界を出奔したぞ」

「――は?」

「だからぁ、私の両親は夫婦で手と手を取り合って魔法界から家出したの」

「はああああああああ?!」

「叫ぶな、店に迷惑」


 叫び出した阿倍の頭を殴り、苦笑したウェイトレスさんからパフェを受け取って食べた。阿倍は信じられないとばかりに私を凝視するし、それをどう勘違いしたのか店の各所からお熱いねなんぞという声が聞こえてくるし、せっかくのチョコレートの味が分らなかったじゃないか阿倍め。










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 自由人な女版。男の時はもっと控え目。
09/03.2010

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