振り向けばマジカル
気が付いたら四歳児だった。良かったことに今までのおむつの記憶なんてさっぱりなかったんだけど、私が動転しないかと言うとそうでもない。何故「四年前からここにいる」記憶があるんだ? 四年前はともかく、去年は私はTOEICでヒーハー言って、定期試験で泣き叫んで、今年やってくる大学受験のために花の高校生とは言い難い毎日を送ってたはずだ。てかついさっき私はセンター試験会場に行こうとしてたはずだ。何でだ。
「晃一ー? 倫子ちゃんが遊びましょって来たわよー?」
「はーいママ!」
――何がはーいママ! だ。反射的に返事しちゃったじゃないかこの私の馬鹿! ついでに晃一って言うのがこの体の持ち主の名前で、読んで分る通り男子だ。そして私は、女だったはずだ。はずなんだ! 嫌だよ、男って小をする時自分のソレ持たなきゃいけないんでしょ?! なんて羞恥プレー、それに男子トイレにプレイバシーなんてないよセクシュアルハラスメントだよ! 股間に違和感があるよぶにぶにしてるよ太ももに何か触れてるよ!
「こういち! ママがプールだしたからプールしよ」
「あ、と……うん」
トテトテとやってきたのは晃一君のお友達倫子ちゃん。女の子だけどどうみても将来的に美男になる気がしてならないすっきりとした顔の美少女――美少年って言ったら可哀想だよね。
「ママ、水着出して」
「あら、プール?」
「うん、倫子ちゃんのママが出したって」
とりあえず「私は女子高生だ幼稚園児じゃない男でもない晃一なんて名前じゃない!」とか騒いだら心療内科に連れて行かれそうな気がするから流されてみることにした。これは夢さ、夢。きっと。流されてしまえ。
「倫子ちゃんのママこんにちはー!」
「こんにちは晃一君、もう水着着てきたのね」
「うん!」
そして私はプールを見て、ふと思った。らんまだったら水被ったら女になるんだよね、と。――後から考えればそれが原因だったのか、それともいつかはこう言うことが起きてしまうことが決まってたのかは分らないけれど。
水にじゃぼんと浸かったとたん股間の違和感が消えた。そして思ったのは、「これはもう水風呂入れないわ」だった。
プール遊びから家に帰って晃一君の記憶と私の記憶を思い返してたら、そういえば試験会場に向かう途中階段から滑って落ちたってことを思い出した。段数三十段はあったからな、そのまま落ちれば死ぬこと間違いなし。私は死んで生まれ変わったらしい。――いや、憑依かな? 元々私は晃一君の双子の姉だか妹だかになるはずだったのが晃一君に何故か吸収されて生まれたから、憑依なのか乗っ取りなのか良く分らない。ついでに晃一君はどうなったのかと思えば彼は幼いがゆえに「私の記憶」に侵食されて消えてしまったみたいだ。
それにしてもどうして私は今日目覚めたんだか。何かあるの?
理由っぽいものは三時になってから分った。お昼ご飯を食べるため分れた倫子ちゃんが嬉しそうににこにこしながら遊びに来たのを見てどうしたのかなーと思ってた、ら。
「たんじょうびおめでと、こういち!」
どうやら今日が四歳の誕生日だったみたいで、ママの出してくれたケーキには蝋燭が四本立っていた。これがきっかけ、なのかな?
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ただでさえマイナー、知ってる人間がいる確率は二十分の一以下だと思われます。説明臭くなってすみません…… 08/28.2010
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