黒炎を孕む風4



 元就に命じられ、長曾我部と仲が良いと言う伊達の情報を得るため奥州に行くことになった。片目同士なにやら通じるところでもあったのだろうか、最近急にこの二人が接近していることを元就は危ぶんだらしい。オレに命令するとはそういうことだ。ところでこの奥州だが、すぐ近くに真田――猿飛佐助のいる甲斐が近い。わざわざ甲斐を避けて少し遠回りして入ったが、そう言えば奥州には頻繁に真田が現れると言う話を聞いたことがある。もしかすると顔を合わすこともあるかも知れないな……面倒くさい。


「……ハァ」


 オレは日々強くなっている。それを自覚して知覚している。風魔の名を継ぎ伝説の忍と恐れられてはいるがまだオレは未熟者だ、一人で甲賀の里を滅ぼすには力が不足している。風魔の長として里を守る義務があるオレが捨て身で甲賀を襲うわけにはいかない。だからと言って里の者を頼れば『復讐』ではなく『侵略』になってしまう。だから甲賀を滅ぼすのはオレ一人の手によってなされなければならない。

 こんなにも近くに甲賀の里はあるのに、今のままのオレではただ指をくわえて眺めることしかできない――そのことがオレの目の前を暗くする。まだなのか、まだなのかオレは。まだ復讐には力が足りないのか。伊達の摺上原へテクテクと歩きながらそんな考えに没頭する。が、さっきから誰かがオレを見ているということには気づいている――忍だということは分るが、ここは中国から遠く離れた奥州。ここの忍をオレが知っているはずがない。気配は分るが誰の物かまでは分らず、とりあえず害はないだろうと判断して今のところ無視している。


「あと何日で着くのかねぇ」


 相手にオレが忍だと言うことがバレている様子はない。ただ『観察している』だけのようにも思えるが何故か視線が強い。まるでオレの存在に驚愕しているかのように。髪の色は目立つから黒に染め、兜を脱いで好きでもない顔を晒しているのだが何か問題でもあったのだろうか? 遠目に見た猿飛の顔よりは眉尻が上がり狐目に近いが、この顔が美男に分類されることは知っている。――もしかすると伊達の黒脛巾か? あの忍ばない忍という噂を良く聞く猿飛だから顔を知っていて、オレの顔があいつのそれにあまりに似ているから驚いたのかもしれない。

 ところで、オレが見せたくもない顔を晒して街道を歩くという――面倒くさい手順を踏んでいるのには理由がある。伊達には黒脛巾がいるからだ。急に溶けだすように現れた男など不審がられるに決まっている――黒脛巾の能力は侮って良いものじゃない。


「……」


 オレが一般人であると判断したのか、忍の気配が遠ざかって行った。そしてオレの半径二キロ内にオレを見張るものはいない――唇がゆるりと弧を描くのが分る。もしこの『顔』について片倉小十郎や伊達政宗に報告が上がったとしても何ら問題はない。何故ならオレは『少し猿飛に似た、ただの民』でしかないからだ。


「いっそ、この顔を他の物にしてしまえたら良いのに」


 北方で顔を晒せば聞こえてくる『猿飛とそっくり』という腹の立つ声。何か話せば『声も似ている』と言われるのだろう。止めてくれ――オレはオレだ、あの甲賀の里の猿飛などと比べられるのは不愉快でしかない。いっそのことこの顔を焼いてこの喉を潰してしまえたら良いのにと思うほどに、猿飛の劣化コピーのようなこれらをオレは憎んでいる。猿飛を殺したら、その時はオレもこの顔と声を好きになれるのだろうか?

 分らない。







++++++++

 アンチ佐助もここまでくると病的ですね。佐助が嫌いなわけじゃないの、佐助よりも小太郎の方が好きなだけで!

 小太郎>>ナリ様≒チカたん>>>>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>佐助。
08/26.2010

- 306/511 -
*前目次次#

レビュー・0件


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -