右手に拳銃、左手にナイフ4



 今餓鬼と婦警は人間で言うところの夕食を食っている。婦警はマナーを少し学んだことがあるのか静かに食い、餓鬼は学んだことがあるはずもなく盛大に音を立てている。とはいえ餓鬼の場合はマナーがどうこうではなく他の目的があるから別に良いのだが。


「おっとっと」


 餓鬼がフォークを取り落としかけた。銀に慣らすため、餓鬼には十字架を溶かした銀製のナイフとフォークで食事させている――まあ、銀には慣れると言うより屈服させると言う方が近いが。ちらりと見たところ手が少しただれているが治るから心配いらん。本人が痛いだの何だのと騒いでいないのだから俺が口を挟むことでもない。


「わああああパインちゃん痛そうに!!」


 手の中で食器を踊らす餓鬼は平気そうだが、どうやらその隣に座る婦警はそう見なかったらしい。ケロイド状に皮膚の溶けた手を見て悲鳴を上げている。まあ一般人には少々グロテスクかも知らんな。あのグール共を見た婦警がどうして騒ぐのかさっぱり理解できんが、追々どうにかすれば良いことだ。対して、この餓鬼と言う餓鬼はなかなかどうして役に立つかもしれん。人間としての甘さがない。もしかするとあの時に人間としての倫理観や価値観を捨てたのか……以前のこいつを知らん俺には判断が付けられんがな。


「大丈夫だよセラスねーちゃん、私すぐに治るし」


 そのうち慣れるから平気だとケロリとして言う餓鬼はナイフとフォークを握り直した。強く握ったからだろう、手から蒸気が上がり肉の焦げる臭いが漂う。餓鬼は眉間に深く皺を寄せるだけでそれをやり過ごし再び食事を再開した。根性のある餓鬼だ。


「おい、餓鬼」

「何、アーカード兄ちゃん」


 こいつなら吸血行為を厭わないかもしれん――俺は医療用輸血パックを投げ遣った。受け取りまじまじと見下ろす餓鬼ににやりと笑いが零れる。思った通り嫌悪感はないようだ。


「人間の飯でも腹は膨れるが、何よりも俺たちの食事は人間の血だ。『それ』で腹が膨れないようなら飲むが良い」


 人間の飯を指差し言えばこくりと頷く。今は婦警と同じ食事を口にしているが、婦警とこいつは違う。真祖は若くとも真祖以外の何物でもない。理性が本能が血を求める。


「これ、セラスねーちゃんには渡さないの」

「婦警か? 婦警にはまだ早いな」


 餓鬼と同時に婦警を見やれば、婦警は顔を青くして胸の前で両手を振っている。


「飲みませんよそんなの! ていうか飲めません!」


 餓鬼は口をへの字にすると興味を失ったように食事を再開し、俺は婦警をいじって遊ぶことにした。










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 アーカード視点は大変です……。
08/22.2010

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