右手に拳銃、左手にナイフ3



 村中を徘徊するグール共を、たった一本の棍棒で滅殺するその子供に――俺は歓喜した。あの子供は噛まれたわけでもなければ胎から出でたわけでもない、自ら「成った」吸血鬼だと一目で分ったからだ。真祖。そう、真祖だ。そこらへんの若者たちなどよりも遥かに高い能力を有し、その代償としてか弱点となる物も多い。まあそこらへんは年月と経験でどうにかなるがな。


「おい、そこの餓鬼」


 吸血鬼として生まれ直したばかりの婦警を抱えて村へ向かえば、面白いものを見つけたことだ。棍は迷いなくグール共の脳天と心臓を狙っており、その技には容赦も情けもない。婦警アレの名前を知っていることからきっとアレは村の子供に違いないのだろう、なかなか見どころのある餓鬼だ。


「――にーちゃん誰? と、セラスのねーちゃん?」


 まだ残ったグールもいるにはいるが俺の敵ではない。餓鬼に近寄る奴らに銃を乱射し残りを消した。餓鬼が棍を持ったまま俺に駆け寄る。男かと思ったが女か。まだ二次性徴も迎えてないんだろうこの餓鬼は男勝りなのか、髪は刈り上げに近い短髪、膝小僧の出た半ズボンに男子の好みそうなプリントTシャツ姿だ。全身に返り血を浴びているが気にした様子もない。


「パインちゃん……」


 ただの人の子が鬼と化したことに、婦警が言葉を失っている。人間には当然の反応かもしれんが俺からすれば喜ぶべきことだ。真祖を育てるなどなかなか出来ん。口元が自然と釣り上がる。パインと言うのか。なるほど髪は木の幹に、瞳は葉に似ている。だが寄りにもよって何故松を選んだのか良く分らん。ジャポニズムか? ジャパンでは松が好まれると聞いたことがある。


「パインと言うのか」

「うん。にーちゃんは」

「俺はアーカード。お前と同じ存在だ」


 婦警を横に放り投げて右手を差し出す。長い年月を歩んできた俺にとって久しぶりとも言える真祖との邂逅。真祖同士で師弟関係を結ぶのも悪くない。


「ふーん、よろしくアーカード兄ちゃん」


 棍を放り投げ血に濡れた手をシャツの内側で拭い、パインは俺の手を握り返した。横で婦警が酷いだの横暴だの女性を大切にだのと叫んでいるが無視だ。気にするほどのことでもない。パインの頭を撫でれば不思議そうに首を傾げた。

 婦警を俵抱きに担ぎ、右手はパインの手を握る。パインは何を言うでもなく俺に従いついてきた。頭の良い餓鬼だ――いや、感が良いのか。少なくとも馬鹿ではないようだ。この婦警と比べると扱いやすいに違いないが、連れ回して修行させるにはまだこいつは歳が幼い。見たところ十歳にもなっていない八か九か。ここでグールを倒せたのは憎しみが理性に勝ったからだろう。吸血行動や殺人を強制してこいつの心が壊れてはもったいない。

 だからせめて、こいつが――パインが幼いうちは平穏に過ごさせてやろう。「人生」を捨てるには早すぎる年齢だ。親兄弟を奪われ、友を奪われ、そして人としての生さえ奪われ。将来修羅を歩むとしても、な。










+++++++++

 そんなことを思われてるけど。パインは前世で二十歳近かったから平気ですよ。この連載は前世の名前が名前変換対象になりそうね。
08/22.2010

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