右手に拳銃、左手にナイフ2



「ジェシカ!」

「パイン――!!」


 グール達から逃げ回っていたジェシカは私を見るや安心のあまりぶわりと涙を流した。走り寄って来るジェシカに私も駆け寄る。が。


「ギャアー!!」


 目の前で、ジェシカの肩に腕が刺さった。同時に私の棍がそいつの頭を砕いてたけど。ああ、助からない。ジェシカは助からない! だって穴が大きすぎるんだ! 白色人種のぶっとい腕が、ジェシカの小さな肩から生えてるんだ!


「うあー、うあ――!! 痛いよー、痛いよパイン!」

「ジェシカ、ああジェシカ!!」


 私にはジェシカを助けるすべがない。どうしようもない――そのどうしようもないことが誰よりも私自身が理解してて、自分で自分が情けない。膝を突いてジェシカを抱き上げれば、ジェシカは痛いよ怖いよと泣き叫んで暴れた。抱きしめても大人しくなる気配がない。どうしよう。どうしたら。助けてアーカード、吸血鬼ならジェシカを救えるんでしょ?! 吸血鬼の能力さえあればこんなやつら一瞬で灰に出来るんでしょ?! どうして、酷い――なんで私にジェシカを助ける力がないんだ。腕の中のこの小さな子供一人助けることができないんだ。不条理だ、不条理だ不条理だ不条理だ不条理だ不条理だ不条理だ。ここに長く留まってることは危険だ――私は体の中から沸き上がる想いを一時抑えつけ、立ち上がる。そして振り返り。

 マイクの頭が弾け飛んだのを、真っ直ぐに、見た。私の背後には何時の間に迫ったのかグールがいて。きっとそれを見て助けに出ようとしたマイクが、他のグールに頭を弾き壊された。何で。何で。マイク……自分だけが助かるって選択肢、あっただろ。何で助けに来ようとしてんだ。何で殺されてんだ。隠れてろって言っただろ。


「あ」


 腕の中のジェシカはだんだんと冷たい。私は片手でぐるりと棍を振り回しグールの心臓を一突きした。沸き上がって来る――力が。まるで目覚めるようにだんだんと。沸々と。今の私ならグールなんて敵じゃないってことが本能的に理解できる。こんなのは「敵」の範疇に含まれない。


「ああ」


 私は限りなく現実を「理解」した。マイクは殺された。ジェシカは助からない。私は――もう、人間じゃない。グールなんかとは比べるべくもない化け物になり果てた。

 昔私は日本人だった。日本では昔から、執念が物の怪となり、想いが人を鬼にした。そう、私は鬼になったんだ。吸血鬼と言う鬼に。鉄くさくて吐き気がした血臭も今は慕わしく、口の中に唾液を分泌させるものでしかない。なんて芳しく人を誘い、堕落させる香りなのか。腕の中のジェシカを見下ろす。――既に死んでいる。私はグールの腕をジェシカの肩から引き出した。せき止められていた血がぼとぼとと流れ落ち、甘い香りが私の鼻腔をくすぐった。泣きぬれた双眸に手をかざし瞼を下ろさせる。血を失い青白くなったジェシカの顔は眠っているようなどとは言えない。痛みで引きつった表情はきっと戻せない。


「お休みジェシカ――せめて来世は良い夢を」


 さあ、復讐を始めようか。それはきっと楽しいに違いないから。









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 原作がヘルシングなので、どうしてもグロい表現になります。というかなってます。苦手な方はごめんなさい。
08/21.2010

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