いらはいtoハンタ
外から「岩が!」とか「キャー!!」って悲鳴が聞こえた。薄暗いバスの中を這って進む私には何のことか分らず、え? とみんなのいる方向を振りかえった。――頭上からの衝撃、掻き消える私の意識。私は、私は――
昔から影が薄かった。声をかけても誰も気づいてくれず、自然と話さなくなった。先生でさえ私の存在を忘れることがあった。まるで幽霊にでもなったような日々だった。
どうせ幽霊なんだからと本にのめり込んだ。キャラクターたちの軽快な会話の妙、魅力的な表情やつい引き込まれるストーリー。皆の中心にいる主人公は私の憧れだった……。
「いらっしゃいませご注文はいかがですか?」
ふんわりとした笑顔のお姉さんが、レジ台の向こうに立って『私に』微笑みかけていた。品書きと書かれたそれを差し出され、目に付いたのは――『オーラ:500魂』。
「この、魂って何ですか?」
「魂とは、人間だれしも与えられているポイントのことです。生まれた時に500魂が与えられ、善行を積めば加算され悪行を繰り返せば減点されます。このポイントは転生する時、来世で身につけたいスペックを購入するのに使用されます」
私は死んでいる。それは分ってる。だから、ストンとお姉さんの言葉は私の胸に落ちてきた。
「私は何魂もってるんでしょうか?」
「お客様はなくなられる間際に四十名の方の命を救われました。一人を除くクラスメイト三十八人と、担任教師、運転手です。クラスメイトに関しましては、彼女たちと彼女たちの将来の配偶者及びその子供の命を直接的・間接的に救われましたので、百五十七人分の加点。教師と運転手に関しましてはすでに妻帯して子供もいますので個人と計算しまして二人分の加点。合計、百五十九人掛けまして500魂で79500魂の加点となります。――凄いですよお客様、ここまで加点された方は今までには戦時中にしかいらっしゃいませんでしたよ。お客様が元々持っていらっしゃった511魂と足しますと80011魂でございます」
買い放題ですよと言われ、良く分らないものの品書きを上から下まで見た。――最後に視線が戻るのは、『オーラ:500魂』。
「私、生まれ変わったら、もっと人と話したいんです」
「はい」
「オーラが欲しいんです、オーラが。買える上限まで買います」
存在感が薄いままでいたくない、皆の中心になれるような――中心になれなくても輪の中に入れるような――オーラが欲しい。
「一つの項目につき五個までの購入が認められておりますので、オーラを五個購入と言うことでよろしいでしょうか?」
「はい」
「オーラの付属にこれは如何でしょうか、『カリスマ性:700魂』」
「じゃあ買います」
店員さんに言われるがままいくつか買って、私は転生した。
「お前の名前はゴン。ゴン・フリークスだ!」
父親らしい青年が私を抱き上げそう言ったのを聞き、悲鳴を上げたのは――仕方ないと思う。
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その2で書くことにしました^^ 07/29.2010
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