いらはいto彩雲国3



 何故私が紅貴妃と呼ばれているのかさっぱり分らない。あのジジイ出てこい。――まあ、どちらかに後宮に入って欲しいとジジイが言って、尻込みした秀麗の代わりに私がお妃さまをすることになっただけだけどね。じゃんけんで負けたともいう。幸運補正はどこへ行ったんだろう。


「お美しいですわ貴妃さま」

「流石貴妃さま」


 嫁の必須条件・刺繍。外回りもするにはするけど内職も多い私は、自慢じゃないけど刺繍が得意だ。高貴なお方の着なさるという官吏服の裏地に昇龍を縫いつけたり、どこだかの成り金のために上品なハンケチを制作したりとなかなか収入もよろしく内心呵々大笑していた。いた――のだけど、今までにこれほど非生産的な刺繍をしたことがないので飽きてきた。こう、お上品なのは仕事だけで十分なんだよ! みたいな。『竹林に虎』とか、お嬢様が刺繍する柄じゃないからね。つまらない。刺繍をするにしても、もっとアクティブにしたいんだよ。後宮生活も六日目になると飽き飽きしてくる。


「つまらない……秀麗、秀麗のおまんじゅうが食べたいな」


 秀麗しかいないから取り繕うことなく秀麗に強請った。私と秀麗は双子の姉妹だけどあまり似ているとは言い難い。秀麗は可愛いタイプで私は薔薇姫そっくりの美人タイプだから、姉妹でお妃さまとその女官をしてるというのにさっぱりばれない。それがちょっと寂しかったりするんだけど秀麗は気にする様子もない。


「なら作ろうかしら? 父様にも持って行った方が良いわよね?」

「うん、待ってると思うから持って行ってあげて。私はアレだ、もしもの時の逃亡経路の探索に乗り出すよ」

「散歩って言えば良いのに」

「まあ、散歩でもあるね」


 頷けば秀麗はクスクスと笑って出て行った。さて私はどこへ行こうか――昏君と会うつもりはさらさらないけど、部屋の中でじっとしているのは気が滅入る。元々体を動かすのが秀麗の桃饅の次に好きだから安楽椅子でゆらゆらしてるのは性に合わない。王宮で勉強するのが認められるはずもないし(原作の一緒にお勉強会は話が別)、体を動かすのを許してもらえるはずもないし、するとしたら探索しかないだろう。鈴をチリリと鳴らして女官を呼びつけ、散歩に出ると伝えて外に出た。慌ててお伴をしようとしだした彼女には悪かったかもしれないけどいらないと断り、自由気ままな散策を始める。――これが昏君と運命の出会い☆ になったら……その時は諦めるか。それか外面だけ整えてごきげんよう、そしてさようなら――だな。

 ふらふらと歩きまわれば桜の木に出会った。うんうん、桜は本来こういう花を咲かせるんであって、季節問わずむき出しで寂しい立ち枯れの木なんかじゃない。なんか王宮は恵まれた生活をしてたというシンボルに見えて急にむかついてきた。この野郎元気に咲きやがって。


「シッ!!」


 今身につけているのは女ものの動きにくい服だけど、侍女のふりした用心棒なら何度もやってきた。秀麗とそろって一般の侍女の仕事をしたことだって何度もあるにはあるけど、用心棒の方がもうかるのだ。女の服でどう立ちまわれば良いかは私が一番良く分っている。

 木は悪くないけど私の蹴りで折れるほど細いわけでもなし、ストレス発散に役立ってもらうことにした。バシッと蹴ればたわむ桜の木、落ちる花弁。花弁を目標に拳を突きだせば空気が唸る。――これで剣があれば剣舞でも舞うんだけどね……。

 私がここまで武に精通しているのには理由がある。コンビニで買った超能力を狙い(縹家に)私が誘拐される可能性があり、超能力なしでも対抗できるようにと父上から手ほどきを受けたからだ。元々転生する前も友人に「暴れん坊将軍」と言われていたから武術を学ぶことを嫌だと思った事は全くない。相手が縹家だからか父上の修行は普通の子供なら根を上げるほどのものだったけど、今じゃ超能力がなくても国一番なんじゃないかってくらい強くなった。


「剣稽古の観賞……ね」


 昏君はどうでも良いから、宋太傅のいう稽古が見たい。ていうか参加したい。ジジイに会場の用意を打診しようかな……。


「桜の精、か?」










 幹に背中を預けて唸ってると、サクリと地面を踏む音がして――男が、立っていた。









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 最近腕っぷしの強い夢主ばかりな気がする。
07/28.2010

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