月が綺麗ですね3



 中学になんぞ行ってられっかと引き籠り生活を始めて十数週間。五月を過ぎ、そろそろ七月の声を聞く頃だろうが。六月の中ごろ――そう、十八日にリボーンはツナと接触する。そしてその十八日は、今日だ。


「そう、原作の世界か確かめるだけだよ、原作の世界か」


 もし原作通りでなければ、オリジナル展開という可能性がある。食べても食べても中身が減らない冷蔵庫――なわけがなくて、食べた分は自分で買いに行かなきゃいけない。買い物ついでに外に出ようか……サングラスかけて。

 私の容姿はごく一般のもので、どこが変わったとかはない。なのに街を歩けばみんなが頬を染め囁くんだ。――何と美しい、この世の美を集めた結晶だ、と。私はそんなの望んでないし、そう思われたくなんてない。だから極力外には出たくないんだけどね。

 財布を持って外に出た。サングラスをしても人は私を避けて歩く。ああ……最悪だ。TTAW社め、七代先まで呪ってやる。










 入学式の夕方、着替えるのもおっくうで制服のままでいた。母さんに醤油を買いに行ってと頼まれたから家を出て――その行き道に、オレは、彼女と会ったんだ……。

 どんな画家にだって、彼女の美しさは描ききれないと思った。肩まである髪の一筋一筋がまるで絹糸のように柔らかく風を受けて揺れ、伏せた睫毛も物憂い表情も細い腕も――全部が綺麗だった。青いワンピースがふんわりと白い足を覆い隠し、西洋人形の履くようなエナメルの靴が小さい足をキュッと引き締めている。

 どんな人形師にも、画家にも、作家にも表現することはできやしない。全てを超越した美が、そこには、あった。


「あ……」


 感動のあまり立ちすくんで、じっと彼女を見てしまった。そんな自分に気がついて、恥ずかしさのあまり声を上げてしまう。

 彼女は始めからオレがいたのに気付いてたんだろう、ゆっくりとオレの方を向いて微笑んだ。憂鬱そうだった顔に華やかな笑顔が浮かぶだけで、彼女の雰囲気は百八十度変わる。人形みたいだと思った彼女は、今度は百合のように華やいで美しい。オレを見て、彼女が笑った。その事実だけで胸が熱くなる。


「また……」


 彼女はブランコを降りるとそう言ってオレに背を向けた。「また」と彼女は言った。なら、「また」会えるのだろう。だけどその証明を彼女から聞きたくて。


「まっ、また、会えますか?!」

「ああ」


 彼女は少し振り返り、首をコテンと傾げて言った。可愛い……!

 その日、オレは初恋の味を知った。彼女が誰かは知らないけど、きっと振り向いてもらえるように――頑張りたい!









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 他人視点難しい……でも楽しい^^後半はまた後で
07/18.2010

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