いらっしゃいませー5
なんだか個人所有な気がする飛行機に乗り、国境を越え、私は帰って来た。どこって日本に。
この体では初めてのフライトだったけど、「超人的な体力」のおかげで何の問題もなかった。前世で耳の痛みと戦ったのは一体なんだったんだろうかと泣きたくなるくらい平気だった。なんなのこの差は、もしかしてこれが差別ってやつですか、そーですか。
「夏輝ちゃんは奈々さんと会うのは初めてだったかな?」
生まれたときの記憶なんてないから、奈々さんの顔なんて見たことがない。気が付けばイタリアにいたし。
「うん」
頷けば、痛々しそうに九代目が顔をしかめた。生まれてから四年間も母親に会えないままだったことを可哀想に思っているらしい。そうさせたのは九代目や家光パパでしょ、すまないと思うなら慰謝料を払えば良いんだ。どうせ二人が思ってるほど、奈々さんがいなくても気にならなかったし。
「そろそろ家に着くからね」
「うん」
これから私は、双子の兄であるツナと一緒に暮らすことになる。――このまませっかく身に付けたイタリア語が分らなくなったらどうしてくれる。家光パパをどうにか籠絡してヴァリアーの皆とビデオレター送りあえるようにしよう。
私たちの乗った黒塗りの車が止まり、運転手さんが外から扉を開いた。金持ちだなーといつも思うよ。どんだけ金払ってるんだろうか、年収いくら? って聞いたら怒られるかなー?
「奈々ぁ――!! 今帰ったぞぉぉぉ!」
「あなたっ! お帰りなさい!」
不二子ちゃんに愛を囁くルパンのように奈々さんに飛び込んでいく家光パパを見て、なんだか色々と白けたと言うか――この人と血が繋がっているのかと情けなさに涙がこぼれそうになったと言うか。貴方それでも門外顧問なの?
「夏輝だぞ、可愛いだろう! まあ奈々に似たんだから当然だけどなっ!」
それとオレの仕事先の社長さんだ!! とついでのように九代目を紹介した家光パパに、それで良いのかと突っ込みたい。九代目も笑ってないで怒りなよ。
「夏輝……ちゃん?」
「うん」
「私が、夏輝ちゃんの、ママよ」
「うん、ママ」
とまあ、感動的な再会だった。傍目には。私はなぁ……母親なんて必要ないし、精神年齢なんて奈々さんとあんまり変わらないし、自分のことは自分でできるから世話係もいらないし。今さらな部分があるんだよね、そりゃあ家光パパも子育てしたいだろうし自分の子供に近くにいて欲しいって思って私をイタリアに連れてったのは分るんだけどさぁ。四歳にもなって、いきなり今日から私が君のママよーなんて言われても、別にイラネーとしか思えない。奈々さんが好きか嫌いかの話じゃなくて、いるかいらないかの話。無理だろうけど、出来るなら一人暮らししたいくらいだ。私には前世からの生活習慣があるんであって、それを修正しようとされるのは勘弁してほしいんだよ。シビア? 知ってます。
「ツッ君に会いましょうね、夏輝ちゃんのお兄ちゃんよ」
そう言って手を引かれ庭に向かう。家光パパと九代目も後ろで何か話しながら着いてくる。内緒話だからイタリア語で話してるみたいだけど、私には筒抜けだよ。十代目を継がせるのは誰が良いかなんて話、ここでしないで欲しい。私に死ぬ気の炎があればとか何とか話してる。良かった、死ぬ気の炎見せなくて。超直感もとっくに目覚めてるんだけど、見せたら即「YOU十代目になっちゃいなYO!」とか言われそうだから見せてない。それに、見せたら見せたで封印される可能性が無きにしも非ずだし。
「ツッ君」
ツナが庭で一人ボール遊び(私の兄ながら寂しい奴)をしているのを見つけ、奈々さんが声をかける。振り向いたその子は――天使だった。感動のあまり涙がチョチョ切れそうなくらい可愛い天使だった。神はいた! と祈りたくなる。双子だからか私の顔と似てるんだけど、男の子らしい可愛さがにじみ出てて少年愛に目覚めそうだ。近親相姦駄目絶対。私の髪は奈々さんに似たのかふわふわながらも落ちついているけど、ツナの髪はサイヤ人みたいに跳ねている。プリーモに似たんだよね、プリーモに。つまり将来的にツナはプリーモにそっくりな美形になるってことだよね、わあ何ソレすっごく楽しみ! チビツナを楽しみにしてたのは確かだけど、ここまでとは思わなかったよ。流石二次元と言うべきなのかなぁ?
「ふぇ……誰?」
「夏輝ちゃん、ツッ君の妹よ」
前に妹が欲しいって言ってたでしょ? と奈々さん。その横で私は悶えるのを抑えるのに必死だ。「ふぇ」って! 「ふぇ」って!! 狙ってるんだろうか、狙ってるはずがないんだけど狙ってるようにしか思えない。私この環境で生活して行ける自信ないよ、萌え過ぎて毎日が鼻血の赤に彩られるよ。近親相姦がなんだ、愛してるんだ! とか言って襲いかかってしまいそうだよコレ本当にヤバい。ボイスレコーダーで「ツッ君、ナッキと結婚するぅ!」なんてのを録音して毎日聞きそうだ。ショタサイトに投稿したら再生回数万を越えるんじゃないだろうか?
「えと、ナツキちゃん?」
「ナッキ」
「ふぇ?」
「ナッキって呼んで」
ここは我慢だ夏輝、今襲えば明るい明日はないのよ! これから萌え生活を送るためにはしばしの我慢が必要なの、耐えきるんだ、私!
それから。ツナがワンコで泣くのに(内心)悶え、死ぬ気の炎を封印されたシーンを見届け、沢田家で過す一日目を終えた。これからはポーカーフェイスが上手くなりそうだよ。
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チビツナとのエンカウント編。ついでにナッキは、小学生になるとある人との同居を開始します。バレバレですが、さて誰でしょう。 07/16.2010
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