輝々もし君がオレと同じなら
萩は何もできない――わけじゃない。体が小さいがゆえにリーチで劣る部分を不可視の糸で補い、この町に現れる悪意ある妖を倒している。決して弱いとは言えない、今の状態のオレなら苦戦するだろう者も萩の前では無力だ。
「とぅ!」
萩と背中合わせに魔界からの流入者を倒して行く。オレの妖気に釣られたのか、それとも他の要因があるのか……最近は魔物の流入が激しい。こうしてオレと萩が手を打たなければ蟲寄市は魔物の巣窟と化してしまうだろう。
「薔薇刺鞭刃!」
どうして萩にこんな力があるのか聞いたことはない。聞けば何かが壊れてしまいそうな気がして――萩がオレから永遠に離れていく気がして。杞憂なのかもしれないが、この不安を抱える限りオレが萩に訊ねることはないだろう。萩が自ら話題にするか、オレの不安が無くなるか、どちらかが満たされない限り。
「念糸、断頭!!」
萩の操る見えない糸が雑魚連中の頭を落とす。昔ワイヤーかピアノ線を使っているのかと思って見せてもらったが、そのどちらでもなかった。
「流石は雑魚なだけあるわね、仲間がやられても全く躊躇する様子がない――まるで操られてるみたい」
「そうだね……これじゃ出来の悪いコンピューターゲームをしているみたいだ」
魔界に帰れと脅し半分殺す気半分で応対していたのだが。彼らは帰りもしないし引き下がりもしない、まるで決められた命令を単調に遂行しているだけのようにも見えた。最後の一人を倒し、萩は眉間にしわを寄せて虚空を睨んだ。何かあるのだろうか?
「魔界と人間界の間には霊界が干渉してるはず。何故霊界をこんな雑魚が素通り出来てるの?」
「っ、そうだ」
こんな魔界の底辺を彷徨っているだけの魔物が、どうして人間界に来ようなどと考えるだろう? 普通なら考えることもしない。
「霊界による魔界のイメージダウン、か?」
誘導して――ないしは洗脳して人間界に送り込み、事件を起こさせそれを霊界が取り締まる。これの示す答えは、人間界における霊界の干渉権の優位確立。
「は……ぎ。これは」
「私たちには関係ないことだよ。私たちは人間、でしょ? 霊界と魔界がいがみ合おうが私たちには関係ない」
「ああ……そうだな」
見下ろす萩の身長は悲しいほどに低い。これでオレと一つ違いだというのだから不思議、というよりは謎だ。妙に遅い成長、人間にはありえない高い霊力。これが示すのは。
魔族大隔世。オレが見る限り萩の霊力が急激に上がったことはない。またオレと萩が初めてあったのは萩が五歳の時だから、あの年齢で覚醒に耐えうるとは考え難い。つまりそれが示すことは――萩が、生まれながらにして魔族として覚醒しているということ。
「――秀ちゃん? おーい、秀ちゃん!」
思考に没頭していたらしい、萩がオレの目の前で手を振って呼んでいた。
「どうしたの、何かあった?」
「ああ、すまない。考え事をしていた」
「そう、それなら良いんだけど」
萩、もし君が魔族なら。オレは――
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ものっそい難産で、幽白のウィキと睨めっこしながらガタガタ。やっとできた!
09/12.2010
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