輝々
ウジャト越しの歴史

 オレは医者だ。それも外科医。全ての人間がオレを褒め讃え、オレを望み、オレに縋る。患者の――患者とその家族の縋りつくような目を見るたびにオレは思ったんだ、オレは選ばれた存在、つまり神なのだと。

 だが、神といえど人生の終わりがあったらしい。オレは飛行機事故で墜落死し、冥界のコンビニとでも言うべき店で銀髪紅目と無敵の力を手に入れた。世界の選択ができたから、現代日本に似た超能力などはない世界を選んだ。そこでオレは無敵のヒーローになると決めた。待ってろ低能な人間ども、オレ様が救ってやるぜ!





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「うがあぁぁあぁあああぁ!」


 かつての日記を【魔法】で燃やし、畳の上をゴロゴロと転がった。洞爺湖が腰と畳の間に挟まって痛いがそんなこと気にしてられねー。


「何なのコイツ馬鹿なの死ぬの?! 厨二病マンセーなのも大概にしろよ馬鹿じゃねーの?! 恥ずかしいと自分で思えよ糞して死ねよ!」


 昔の日記なんざ整理するんじゃなかった。黒歴史は箱に詰めて捨てるか燃やすかすれば良かったものを、なにをトチ狂って読もうなんていう凶行に走ったのか。――いや、この世界で生まれて初めて書いた日記が懐かしくて、なんとなく読んでみようと思ったんだ。


「なになに、この腐った世界を清浄なモノに戻すためオレは刀を取ることに決め――白夜叉時代とか死ねよマジで。何が清浄だ、クリーンな政治ですかよオイ立候補でもしてろ」


 次から次へちらりと読んでは焼き捨てることを繰り返し、ついにはここ数年の日記だけが残った。


「なんでこんなの残してたんだろオレもう信じらんねーよ自分が。こんなクソ日記が後世に残ったりして『昔はこんなバカな人がいました』なんて小学校で教えられちゃったりするんだぜ本気で生き絶えろよォォォォ!!」

「うるさいよ銀時ィィィィィイ!! 店の邪魔だからちったぁ静かにしてな!!」


 叫んだからか、下にいるらしい登勢のバーさんが何かで天井を突いてきた。衝撃が背中に走る。


「人の迷惑なんてしらねーっての! 今オレはオレのことで超忙しいからぁ!!」

「こっちこそんなこと知るわきゃないね! 黙ってな!!」


 怒鳴られ、渋々口を閉じた。自宅兼事務所の前を走る通りから女子供の声男の声。世の中は平和だ。





「ホント、何したかったんだろーな、オレは」


 命を救える技術を持ってるくせに使わない――使えないのは、かつてのように自分がおごり高ぶるのではないかと、半ばトラウマのように思っているから。あの【目】を見たらオレは前のオレに戻ってしまいそうな気がする。誰もかれもを救える手を持っているのだと、選ばれた人間なのだと思い込む、封印したい過去の自分に戻ってしまうかもしれない。


「救えてんのかな、オレ」


 攘夷戦争に負け、日本は天人の侵食を許した。平和な時代に白夜叉は、攘夷派は邪魔なのだ。だからこうひっそりと生き、きっとひっそりと死ぬ。銀玉の原作なんざオレが死ぬ前に完結してなかったし。新八とのエンカウントだってスルーできるだろう。平和に、平和に。




 厨二にはもう、関わり合いたくねーもんで。








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 皆さんの期待を裏切る出来具合に全僕が後悔した!
09/15.2010

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