輝々かか様は皆のかか様、母上は君の母上
富太郎も楓も麻次郎も師匠について、忍として修行をしてる。富太郎は四年目、楓は二年目で麻次郎は今年から。がらんとした部屋で私はため息を吐いた。寂しい、つまらない。
見れば外は晴れ渡る青天。こんな日は外に出て、三人の様子を見に行ってみるのも良いかもしれない。そうと決めれば後は早い。暇つぶし代わりに品種改良――遺伝子を組み替えて遊んでたきゅうりのタネをほっといて、お手伝いに来てくれてる皆に声をかけてから家を出た。
鍛錬場は村の端にあり、大道芸と言っても良いような気がする離れ業を披露する子供とか風魔手裏剣を振り回してカカシをなぎ倒してく少年とかがそれぞれの師匠に付きながら修業してる。
「どなたかと思えば。御遣い様ではございませんか!」
一人が私に気付いて声を上げた。中でも年配で、ゴマ塩頭のおじさんだ。何度か会った事があるけど名前を聞いたことはないなぁ。
「こんにちは、みんな修行に精を出していますね」
この場にいる子はみんな、私が名付け親。現代風の名前を付けたら時代錯誤だろうし、なるべくそれらしい名前をと頭を捻ったよ。――まあ時々現代風の名前の子もいるけど。それはそれ、これはこれ。
「かかさまだ!」
「かかさま!」
中でも年少の子たちは私のことをかか様と呼んで慕ってくれる。どうやら産んでくれたお母さんは「かあちゃん」扱いらしい。色々と申し訳ない……。
「こんにちはみんな。今日は見学に来たのよ」
だから頑張ってね、と言えば年長の子たちも顔を引き締めた。忍の恰好良いところを見せたいんだろうな、と思うとほのぼのする。私は忍者じゃないただの無力な一般人だけど、この子たちが自分の技を自慢できる対象でもある。普通の村人に忍技を見せたらその人が手を叩いて「凄い」だなんて褒めてくれるはずもないし、それどころか里を追われちゃうし。人は褒めて伸ばすってのが信条の私からすると私みたいな存在もいて良いんじゃないかなって思う。
「うー、母上!」
「どうしたの富太郎」
「母上は僕の母上だよね?!」
「そうだよ?」
楓はどうやら他の鍛錬場なのかいないし、麻次郎は修行のせいか他の子たちと一緒に木陰で寝てる――というより気絶してる?
「なら……っ!」
もどかしそうに顔を歪める富太郎に合点がいった。
「大丈夫、富太郎は私の自慢の子供だからね」
「う、うんっ!」
発奮した富太郎に同年代の子たちが被害を被って、火の婆娑羅で消し炭にされそうだった。
「あれ? ここにあったきゅうりのタネは?」
「それならもう植えましたが……何かございましたか?」
「あれは植えるつもりなかったんだけど、植えちゃったなら仕方ないか」
「えええ――?! も、申し訳ありません! すぐに掘り返して参ります!」
「良いよ、タネ小さいんだし見つけるのは大変でしょ」
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ほのぼのを目指した。小太郎が出てこない。
09/14.2010
おまけ
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「母上、これは何ですか?」
「……何だろうね」
「実がまん丸ね!」
「ちょっと切っただけで水が出てきますね」
「収穫だー!」
「ちょっと富、なにしてるの!」
「美容水に使える……のかなぁ?」
たしか瓜の水って天然の美容水だよね。ちょっと広めてみようかなぁ。
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