輝々物事はすべてウラオモテ
元就はあまり甘やかされるのを良しとしないが、時々衝動的に甘えてくる時がある。きっと疲労のピークなんだろう。普段から定期的に休みを取っていれば動くのも億劫にまではならないだろうに、限界などなんのそのとばかりに根を詰めるからぶれが大きい。
「動く気も起きぬ」
「ですからお休み下さいと申しますのに」
この状態の時に攻め込まれでもしたら毛利は滅ぶぞ。そう何度も進言したが聞く耳持たない――どころか、貴様が守れば問題ないと素面で言いきってくれるから頭が痛い。
そして今元就が何をしているかというと……オレを椅子代わりに座っている。
「兜を取れ――貴様の顔を見たい」
「はっ」
オレ自身が全く好きになれないオレの顔なんか見て元就はどこが嬉しいんだか。喉を潰そうと思った事もあった、顔を焼いてしまおう思った事もあった――だができなかったのは、仕事に支障が出ることと……当時から仕えていた元就がオレの声と顔を気に入っていたからだ。まじまじとすぐ横から顔を見られて少し羞恥を覚える。
「貴様の顔を見ると落ち着く……」
「……そうでございますか」
一瞬顔をしかめたのが分ったのか、元就は眉間に深くしわを寄せオレの頬をつねった。
「甲賀の里は滅んだのだろう、何故そのような顔をする」
「申し訳ございません」
「謝罪がききたいのではないと分っておるだろう」
「は」
分ってはいる。だが心が追い付かない。二十年近いこの憎しみは簡単に忘れられるものではない。
「聞け、小太郎――」
すぐ横にある顔が、オレに囁くように言った。
「我は猿飛などいう者の顔など知らぬ。声も然り。我が知っておるのは風魔小太郎という男の顔で、声。我にとっては貴様が猿飛に似ているのではない、猿飛が貴様に似ておるのだ。分らぬか」
元就の言葉に目を剥いた。あいつにオレが似ているのではなくオレにあいつが似ているのだ、と。そんな逆転の発想などしたことがなかった。
現代人の脳みそは柔軟なはずだっていうのに、オレの脳みそは柔軟じゃなかったみたいだ。つい顔がほころぶのが分った。
「だから――笑っておれ、小太郎」
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密着してるからイチャイチャなんだと主張。イチャイチャと言うより甘甘だけど気にしない。
09/12.2010
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