輝々
とろける笑顔は私にだけ

 今日も帝王は暇を持て余して死喰い人たちを苛めてた。こんな職場、皆よく我慢できるなぁ。私だったら無理。すぐ辞める。どっか、枕を高くして眠れる土地を探して隠遁する。てか私蛇で本当に良かった。蛇じゃなかったらとっくにデッドかダイングかどちらかを選べとか言われてただろーと思うから。どっちを選んでも死ぬ未来しかないんですが何でだろう、みたいな。


「クルーシオ!」


 哄笑しながら帝王が死喰い人に呪文をかけて、可哀想な被害者は床の上を悶絶して泡噴いてる。あーあ、こんな職場、本当に嫌だ。前世が人間で、英語はそんなに得意じゃないけどちょっとは分る位かじってるおかげか……会話の内容が分っちゃうんだよねぇ。誰それさんを殺せ、とかどれこれを殺し損ねた、とか。なんて場所だ、私おうち帰りたい! って言ってもこの国に家があるわけでもなし、ここしか居場所がないんだけれども。心底逃げたい。どこか私を引き取ってくれる心やさしい公共機関――動物園でも良い――はないだろうか? ああでも私毒蛇だ、見つかり次第処分されること間違いない。助けてアンパンマン、あなた、犬でも猫でも助けてるじゃないか。蛇だって助けようよ。


『ナギニ』


 でもどうして私が帝王から離れられないかって言えば、これのせいなんだよね。帝王は蛇の言葉が分るから、他の知能の低い仲間と一緒にいるよりだいぶん文明的な会話ができるんだ……すごく魅力的なお誘いでしたともよ。


『はーい』


 私は帝王のそばまで這って、一メートルくらい離れた場所で一旦止まった。頭を上げて帝王を窺うと、帝王はニヤリとした笑みを浮かべて指をチョイチョイとした。


『全く愚かなしもべたちで困る……お前のように物分かりの良い蛇がいる一方で、言いつけられた任務を完遂できずにノコノコ帰ってくる役立たずもいる』


 私は帝王の膝に上って丸くなった。人間にしては体温が低いんだろうけど、帝王の膝の上って熱い。蛇体温からすると温泉に浸かってるようなくらい熱い。そのうち火傷しそうな気がしてきた。


『良い子だ……』


 帝王が私の頭を撫でながら喉でクツクツと笑った。はっきり言って怖い。まあ帝王が私を叩き落としたり魔法で苦しめたりしたことはないからそういう面では安心してるんだけど、一緒にいて精神衛生上悪い気がする。

 帝王は「私には」優しいし魅力的な人なんだけど、部下っていうか「しもべ」にはこれ以上なく厳しい。見てるこっちが痛々しいくらいなので、とりあえず見なくて済むようになりたいです、マル

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