輝々
謎の彼女X

 ジェームズ・ポッターを追い返そうとして怒鳴り、図書室を追い出されてしまったリリー。僕はその、荒くなおされた椅子と机の空間をじっと見つめていた。僕はリリーが好きだ。あんな軽い男よりも、もっと彼女を愛している。ああ、どうしてあいつは僕とリリーの邪魔ばかりするんだ!


『ウダウダ悩まずにさっさと告っちゃえYO☆』

「貴様はどうしてそんなに軽いんだ」


 物心ついた時から、僕の中にはもう一人いる。相棒――そう呼べと言われた――には、彼女が僕の中に暮らしているからか僕の考えていることがいつも筒抜けだ。彼女いわく『分かりやす過ぎる』らしいが、他の級友たちには分かりづらい奴と思われているからどちらが正しいのか分からない。まあ彼女は僕の育ての親のようなものだし、僕について良く分かるのは当然なのかもしれないけれど。


『さっさとしないと盗られちゃうよ。ただでさえ違う寮であんまり会えないんだからさ』

「――分かっている」

『そお? 私から見てもリリー美人だからなぁ……。危うく百合色の道に走っちゃいそうになるくらいだもん』

「走るな馬鹿」


 それに体は僕のものだろうが、と言えばケタケタという笑い声をあげて肯定した。


『まーね。あーリリー可愛いな、リリー。もうちょっと大人になって落ち着きを持ったら奥さんになって欲しいくらいだよ』

「相棒……」


 こいつは本当に女なのだろうか。それが気になってならない。






『私、もう我慢できない……』


 湖畔の大木に背中を預け本を読んでいた僕に、あの忌々しいポッターたちがまた絡んできた。奴らが笑う中、逆さ吊りにされて脱げそうになるズボンを必死に押さえていると、頭の中でそんな声が響いた。


「どうしたんだ、相ぼ――」

「フィニート・インカンターテム!」


 手が勝手にズボンのポケットから落ちかけていた杖を取った。口が慣れない呪文を呟き、「僕の体」はくるりと宙で回転して軽やかに着地した。一体何が起こってるんだ?!


「今までずっと! ずっとだ、私は目をつむってきた! でももう我慢できない」


 「僕」の変わりように奴らも驚いているようで、目を丸くして間抜け面を晒している。


「スリザリン? グリフィンドール? あんたたちは頭が固すぎる――どうして分からない? あんたたちはスリザリン寮生を陰険というけど、あんたらのやり口の方が何倍も陰険なんだよ!」


 僕の口が勝手に動く。これは相棒か……?


「校長も校長だよ。あんたらの頭を殴らないからあんたらが救いようのない馬鹿のまんまなんだよこの馬鹿! あの校長は本当に教育者か?! 馬鹿をのさばらせて何を作りたいんだ、馬鹿の園か? 馬鹿は壁だけで良いんだよ!」

「一度ちゃんと怒られて反省しろこの阿呆! その首の上に座ってる球の中に詰まってんのは何? 脳味噌? 嘘こけ。そんな脳味噌の足りない頭が世間様で通用すると思ってんの?」

「あんたらみたいなグリフィンドール生よりも一般常識のあるハッフルパフ生の方が役に立つんだよこの役立たず四人組! 悪戯に天才的? 知るかそんなもん。行動の全てが大人って言えないんだよこのピーターパン共!」

「成績優秀で将来も引く手数多だろうが仕事と勉強の成績は違うんだよ! 仕事場じゃ餓鬼な天才より大人な一般人の方が重宝されるんだ、分かってんの? 分かってないよね? 分かってたらこういう精神年齢の低いことしてないよな?」


 説教もここまでくると怖いものだな……。相棒がこんなに雄弁で合ったことなど今までになかったから、珍しいというよりは一体どうした、としか思えない。どんどん口調が悪くなっていっている気がするのだが……。






 その後一時間ほど長々と説教し、相棒は満足した様子で僕に体を返した。中で説教を聞かされる僕の身にもなって欲しい。次の日リリーが『グリフィンドールが快適になったわ、セブ有難う!』と言ってきたのが素直に喜べなかった。






―――――――――
 ああ、王道な説教モノをしてしまった……でも魔法は使わなかったのよ、あくまで言葉なんです、と言い訳してみる。文句を考えるのがとても楽しかったです。

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