輝々
想定範囲内外

 私の名前はパンジー。パンジー・パーキンソン。この名前になって十一年が過ぎてて、元の名前と同じくらい私にしっくりきてる。昼食を終えた私は席を立った。図書室に行きたい。


「ドラコ、私図書室に行ってくるわ」

「ああ、分かった。パンジー」


 一度死んで生まれ変わった私にとって、周りに十一歳は餓鬼ばかりでつまらない。自己を確立してからの年数は三十年に近いけど、それがそのまま精神年齢に繋がるかと言えば、否――私の心は二十で止まってる。たった九歳。されど九歳。私はこれから同年代の子たちと同じように恋愛して、結婚できるのか……分からない。

 同寮の生徒の中で一番見た目がましなドラコとつるむのは、同じ餓鬼でも見た目で許せるから。あんまり可愛いとは言い難い顔した歩く騒音と行動を共にするのはまっぴらだ。それにドラコの付き人の二人は騒ぐことより食べることに執心してるからまだ我慢できる。

 でも、まだ食事を止めそうにないクラッブとゴイルが、図書室に行くような脳味噌を持っているとは思えない。ドラコだけならまだしも、この二人は来るだけ邪魔だ。

 大広間を出て、図書室へ向かう。今日は魔法薬学の本でも読むか……? 理論さえ掴めたら、ああいった数学的学問は嫌いじゃない。図書室で薬学の理論に関する本を三冊ほど選んで借りた。今日みたいな日は中庭で読書するに限る。空は雲の少ない晴天だ。


「先生どうなさったんですか?」

「今日の先生はどこか違うように見えますね!」

「いつもより若く見える気がします」

「眉間に皺が寄ってますよ先生?」

「馬鹿だなジョージ、元々さ」

「そうだったな」


 私はその声に足を止めた。中庭に出る出入り口から数メートル離れた角の向こうに、どうやらグリフィンドールの悪戯っ子がいるらしい。顔見知りの二人に自然とため息が漏れた。


「フレッド、ジョージ!」


 わざと足音を高く向かえば、赤毛の双子が私の登場に満面の笑みになった。ダボダボの服を着た私と同い年あたりの少年がいたのを見て睨みつけると、おお怖い、と二人は揃って肩を竦めた。

「これはどういうこと、二人とも? どうしてスリザリンの寮監が縮んでるわけ?」

「良く聞いてくれた! これは『かつての栄光をもう一度』って薬さ!」

「枯れ果てた中年向けなのさ。これを飲めば半日の間二十は若くなるんだよ」

「下品よ二人とも」


 ネーミングも、使用用途も。


「スネイプ先生、とりあえずこのローブを着てて下さい。フードも深く被って」


 私はため息を一つ吐いて、本の入った手提げを置いてよいしょっとローブを脱いだ。そんな目立つ格好でいたら、格好の話のネタにされてしまう。何より顔があのスネイプ先生を縮めたまんまなのだ。隠し子だとかそんな噂が流れるに違いない。ローブを上からかぶせてフードを口元まで引き下げる。


「グリフィンドールから二十点減点する……」


 スネイプ先生は口元を歪めて、罰は追って沙汰する、と言った。うーむ、スネイプ先生も可哀想に。衝撃的すぎて減点するのを忘れるくらいだったのね。


「分かりましたー!」

「もうしません!」

「少しは反省した様子見せなさいよフレッド。出来もしないことを言うんじゃないのジョージ」






 私はスネイプ先生を引っ張って、魔法薬学教室に向かった。運良く人とは会わず入れて、スネイプ先生はささっとローブを脱いで私に渡した。


「礼を言う、パーキンソン」

「いえ、どういたしまして。――ここに来たのも何かの縁ですし、ここで残りの休み時間を過ごしても良いですか?」


 手下げから本がのぞいて、題名が半分読める。魔法薬学関係の本だってことは分かりやす過ぎるほどに分かるだろう。


「問題ない。質問があれば受け付けよう。どうせ明日まで外に出られぬしな」


 ニヒルに笑ったスネイプ先生に、どうしてか心臓が跳ねた。あ、そっか。私、死なずに生きてたらスネイプ先生と同年代なんだ。


「有難うございます」


 とりあえずお礼を言って、ひんやりとした地下室で本を捲った。私はスネイプ先生になら恋愛できそうだ。親子ほどに年が離れてるけど。

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