輝々
面倒事は笑顔でやってくる

『ナギニ……命令がある』

『嫌です』


 見た目蛇と変わらない顔したご主人様・ヴォルデモート卿が私を手招きした。私は暖炉の前でとぐろを巻いたまま、動く気がないことを言った。


『何故逆らう』

『自由である権利を主張しているのです。それと食べ物以外を殺すのは面倒です』

『お前は他の蛇共に比べ頭が良い――それは確かだ。だが、強者に従う本能を忘れてしまったようだな』


 ヴォルデモート卿が杖をくいと持ち上げた。脅して言う事を聞かせようとしてるんだろうけど、逆効果だよヴォルデモート卿。反発したくなるよ、それだと。


『本能? 捨ててなんかいませんよ。私たち蛇が毒を持っているのは、獲物を確実に手に入れるためもありますが、自衛の手段でもあります。どうして無意味な殺生のために毒を無駄遣いしなくちゃならないのか分かりかねますね。必要な時に使えないなんてことになったらどうしてくれるんですか』


 人間なんて大きすぎて食べられませんよ、殺しても毒がもったいないだけですと言えば、卿は変な顔をした。


『どうしましたか?』

『――ここまで俺様に口答えできる奴が、人類でないことを残念だと思ったのだ』


 論理的で筋が通っている、蛇にしておくのがもったいないないな、と卿は言ったんだけど、もし私が人類に生まれ変わってたら貴方は平気で私を殺したでしょうが。びっくりしたのよ、目覚めれば手もない足もない。周りにはうじゃうじゃと私と同じサイズの蛇がのたうちまわってて、死を覚悟したわよ。自分が蛇だって気付いた時の衝撃が貴方に分かる? 目玉が飛び出るかと思ったわよ!


『それは良うございました』


 私がナギニに成り代わったんだって気付いたのは、醜い赤ん坊もどきに会った時のこと。どう贔屓目に見ても可愛くないそれが、私にナギニって名付けたから……はっきり言って分かりやす過ぎた。


『お前はそこらの人間より人間らしいな、ナギニ』

『ええ、私自身、私に手と足がなかったことが悔やまれるばかりです』


 あ、でも手足があってもトカゲにしかなれないね。ため息を吐いた卿に、私だってため息吐きたいよと言いたいくらいだ。


『人になりたいか?』

『いえ、人になったら人になったで面倒そうなので良いです』


 遠慮するな、と言われても。遠慮してないのよ、嫌がってるの。


『今の俺様は機嫌が良い……お前を人にしてやろう』

『いりませんってば! 人の話を聞きましょうよ!』

『権利を認めて欲しいと言っただろう? 人になったら――まあ、認めてやらんこともない』

『ずいぶんな上から目線に涙が出そうですよ、出ませんけど!』


 その日私は人間になった。でもヴォルデモート卿が蛇な私もお気に入りと言う事で、夜うは蛇に戻る。昼間は赤ん坊もどきの介護と世話、夜は赤ん坊もどきの話相手。家に帰りたい。何て面倒なトリップなんだコンチクショー!

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