輝々表面は冷静、内面は冷戦
ここ数年間を不遇に過ごし、僕は疲れ切ってた。我ながら愛想の良い赤ん坊を演じたからか、可愛がられたこともあった。それもダドリーが物心つくまでのことだけど。
「すみません、9と4/3番線への入口はここで合ってますか?」
柱なんて何本もあるから、どれが入口だかさっぱりだ。赤毛の集団を見つけ、僕は声をかける。確かこれはウィーズリー一家のはず。僕はここの息子と仲良くすることになるんだ……。
「ええ、そうよ。ところで――貴方、親御さんは?」
「いません。一人です」
「そう。なら一緒に行きましょ」
おばさんに教えてもらい柱をくぐった。柱を抜けた向こうには赤く古めかしい特急が停車していて、映画の通りなことに感動を覚える。ダイアゴン横町も魅力的だったけど、特急も素敵だ……。しばらく見惚れてぼんやりと突っ立ってたら、双子の少年に囲まれた。
「荷物を上げないのかい?」
「良ければ手伝うけど?」
親切だ! 僕は是非に二人に手伝いを頼むことにして、荷物を車内に引き上げた。うっすらと額に汗がにじんで、何も考えず腕でそれを拭ったら――双子が歓声を上げた。どうしたんだろう?
「その痣、君、ハリー・ポッター?!」
「本当に稲妻形だ!」
すっかり忘れてた。そういえば僕の額にはアレがあるんだった……。これが『ハリー・ポッター』と判断される目印になるなら、僕は犯罪者になれそうにない。すぐバレるから。『黒髪に緑の目の少年』なら何人もいるだろうけど、それに稲妻形の傷跡が追加されると該当者は僕一人だけだからね。
「自己紹介がまだだったな、僕はフレッド。フレッド・ウィーズリー」
「僕はジョージさ。ハリーって呼んで良いかい?」
「ああ――ウン。ハリー・ポッターです」
それから祭りでもあるんじゃないかってくらい二人は大騒ぎして、ロンを僕に押し付けて出てった。同い年同士仲良くやれってことだろうな。
「こいつはペットのスキャバーズ」
しばらく話をして、グーグーと寝てるネズミをロンがつまみ上げた。これのせいで僕の平穏な生育環境は奪われたんだよね……これ――ピーター・ペティグリューのせいで。この恨みはらさでおくべきか……。
「ねえ、スキャバーズをあとで貸してくれないかな? 僕、人に飼われてるネズミは初めて見たんだ」
「うん、良いよ。今見たら?」
「うーん、スキャバーズが起きたらね」
起きないと知ってるからそう言っておいた。さて、ピーター君よ。あとで一緒に、校長先生と挨拶しようか。
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