輝々セブとくりすます・ないと
七面鳥が真ん中を占領してるテーブルに向かい合って座る。今回ばかりは店屋ものを買ってみた。
スピナーズ・エンドを出て少し歩けば、まあまあ悪くない街に入る。そこで香ばしい香りを外に流してくれてた店につい、ふらふらと入っちゃったのだ。野菜と牛肉を詰めたミートパイや、牛肉じゃなくてウサギ肉を詰めてるヘアパイ、ホグワーツでも出てるシェパードパイ、皮がこんがり焼けてカリカリになってる七面鳥の丸焼き、タコ糸の付いたローストビーフ、ヴィーナーシュニッツェル(子牛のカツレツ)とかエトセトラ。ここの料理人は本土を回ってきたんだろーなーという種類の豊富さに惚れちゃったのだ。
私は悪くない。悪いのはあの店だ。魅力的なのが悪い。
「買ってきたのか、珍しいな」
だいたい私が出す料理は手作りだ。だって、店屋ものは味が濃いんだもん。セブが目を丸くした。
「いや、これを売ってたお店があんまり素敵なもんだからつい」
「なるほど。――それでは食べるか」
手を組んで祈りを捧げる。ヨーロッパに『いただきます』の挨拶がないわけじゃないのだ、ただやり方が違うだけで。
「日々の糧を与えたもう、御神の恵みは誉むべきかな――アーメン」
「アーメン」
セブはスパークリングワインを、私は炭酸水をグラスに注いで乾杯する。肉料理にはただのミネラルウォーターよりも炭酸水の方が合うのだ。口の中がすっきりして、パクパク食べれる。
「乾杯」
「かんぱーい」
セブが七面鳥を切り分け、私の皿に鳥の足が乗った。タコ糸で縫われた腹には香辛料と肉の捏ねたのが詰まってて、ナイフで切り分ければジューシーな油が水みたいに垂れた。家に持って帰ってきた時にはもう冷めてたし、オーブンで焼いたのだ。
「うむ、美味い」
私にはちょっと香辛料とか味付けとかがキツかったから、一口ごとに炭酸水を流し込んだ。でも炭酸でちょっと舌がひりひりしてきた。
「時々はこういうのも良いかもね」
私は全体的に味付けが薄いからセブにはちょっと物足りないかもしれないしね。
「まあ、時々は、だな」
セブがなんだか思わせぶりな言い方をしたから見上げれば、セブは私を見て微笑んでた。
「レイノが作ってくれる方が、何倍も美味いからな」
セブ、スケコマシみたいだ! なにその殺し文句、色っぽ過ぎるよ!
「あ……そう?」
駄目だ、頬が熱い。これは照れる。セブの顔を直視できなくて料理をうろうろと見た。
「ああ、そうだ。――食べないのか?」
口説き文句ともとれる台詞を言っただなんて気付いてないセブが不思議そうに首を傾げたから、ナイフとフォークを持ち直すしかなかった。
それからは料理の味なんてさっぱり分かんなくて、いつの間にか皿の上が空になってた。
今夜はパパとMary Christmas!
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