輝々
リドルンと一緒・後

 私が知ってるのはノリタケだけだ! あいらぶじゃぱん! と腕や足をバタつかせる鈴緒はいつまでも幼い風情だ。この恋心が叶う日が来るのか――リドルは望み薄だろうなと内心嘆息する。鈴緒に告白したとして、彼女の精神が追い付いていなければ意味がない。


「はい、どうぞ」


 適度に蒸らした紅茶を注ぎ、鈴緒の前に置いた。


「フランボワーズだよ」

「茶の区別なんてできないもんね」


 胸を張る鈴緒。そこは胸を張るところじゃないだろうと思うが言わない。


「あ、でも苺っぽい。香りだけ」

「香りを楽しむんだよ……」


 誰もいないと思ったのだろう、掃除に現れたしもべ妖精がいたから捕まえてスコーンとクッキーを頼んだ。十秒とせず引き返してきたしもべ妖精から皿を受取り鈴緒の目の前に置けば、粉砂糖のかかったスコーンに顔を歪められた。隣のソファに座りながらそれを見てため息を吐いた。どうしてここまで嫌うのだか。


「なんでこう、外国人ってのはお砂糖が大好きなのさ」

「別に普通だと思うんだけどな」

「駄目だ、異文化理解は難しいっ! なんでその顔で十五なんだ、とか味覚が残念なことになってることとか! 甘味でいえばアレ食べたいよ回転焼き! 御座候、御座候っ!」


 叫ぶ鈴緒に呆れるしかない。


「夏休みに日本に帰ればよかっただろうに」

「行ったとも。でも1955年の壁は厚かった」


 ルッシーだって1954年に生まれるのに、姫路に開店するまで待てと?! 別の店で買うというのは――いや、だけどあの味が! だとかブツブツという鈴緒は見るからに邪魔だった。

 彼女が変なことを言うのはいつものことだから、突っ込むことなどしない。


「鈴緒を見る限り、日本人ってミステリアスだよね。何を考えてるのか良く分からないというか、次の行動が見えない」

「神秘的でしょ」

「いいや、全然」


 リドルがそう言えば鈴緒はリドルンなんて嫌いだ、と勢い良くテーブルに伏せた。


「リドルンが苛めたっ! 馬鹿ー阿呆ー間抜けー不能の童貞ー」


 リドルの眉が上がる。どうして自分が童貞のままだと思ってるんだと恨めしく思い、気づく。ちょうど談話室には人がいないではないか。リドルはこれを好機と睨んだ。


「へえ、じゃあ卒業してあげようか、今日」

「え? 何の?」

「どうやら鈴緒は僕が不能だから童貞だと思ってるみたいだからね。ちょうど良いよ、今日卒業してしまおう、僕は童貞を、君は処女を」


 膝を進めて鈴緒の隣に移動する。


「いや、冗談じゃないかリドルンよ。可愛い悪口だよ? 口が滑っただけだよ、いつもみたいに」

「聞こえないな。じゃあ滑ってばかりだっていうこの口は――ふさいでしまおうか?」


 リドルは鈴緒の手首を掴み、顔を傾ける。


「男と違って女の子は一回限りのことじゃないんだぞ、それ――」


 ふさいだ。逃げ口上を言うため開かれた唇の間に舌を差し込む。硬直する鈴緒のそれに絡め、おもちゃ箱を与えられた子供のように中を探った。細い両手首を片手に収め、わき腹をくすぐる。解けてきた舌を引きずり出し甘噛みし、こっそりと笑った。













「初めてだったのに、リドルの阿呆、ヤリチンっ! どう責任とってくれるのさ?!」


 事後泣き叫ぶ鈴緒の腰を抱きしめ、リドルはその日焼けしていない腹に顎を乗せて彼女を見上げた。


「責任とるよ、ちゃんと。幸せにするからね」


 夕食時、頬を真っ赤に腫らした上機嫌な青年が一人見られたとか。

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