輝々
リドルンと一緒・前

 とある、ホグズミード休暇の土曜日。鈴緒はリドルと彼女以外には誰もいない談話室のソファを独占して寝そべっていた。低学年の生徒らは先輩のいない校内を遊びまわり、高学年の生徒らはホグズミードでデートだとかお菓子の補充だとかに忙しくしている。


「鈴緒行かないんだ?」

「うん。だってお菓子なんて買わないし、自分で稼いだ金と考えるとああいう類につぎ込むのがもったいなく感じられてくるからね」

「そう。まあそうだよね、君お菓子食べないし――それどころか匂いで倒れるし」

「そういうリドルはどうして行かなかったのさ? リドルなら引く手数多でしょ、この色男」


 ソファの肘掛から足をブラブラと揺らし、鈴緒はリドルを見上げる。


「はしたないよ、鈴緒。僕は良いんだよ、行く気なかったから」


 スカートが捲れて膝小僧が飛び出ている鈴緒のそれを直す。リドルは自分の頬が微かに朱に染まっていることを自覚した。ここ数年で鈴緒は『ちびのアジア人』から『オリエンタルな美少女』に成長していた。

 鈴緒の口と性格は今も昔も悪いまま変わらないが、リドルの精神は昔と違い思春期の少年のものとなっている。同い年のこの少女がモテていることだって知っているし(彼が地下裡に処分しているのだから)、自分自身のこの気持ちが一般的に何と呼ばれるものなのかも理解している。彼女がいかないホグズミードに何の価値があるというんだ?


「リドル、オカンみたい」

「オカン……」


 裾を直して溜息を一つ吐いたリドルにかけられた言葉は恥じらいのでも礼でもなく、『オカンみたい』。これはそういう対象外通告をされているんだろうか、それともただ鈍くてこんなことを言ってるんだろうか? 前者なら救われないし、後者ならこの鈍チンにどうやって伝えるかが問題になってくる。

 それ以前に、鈴緒は恋愛についてどこまでの理解があるんだろうか?


「せめて甲斐甲斐しいと言って欲しいね」


 嘆きながらそう言えば、鈴緒はリドルに手を伸ばしてきた。


「じゃあ甲斐甲斐しいリドルン、起こして。紅茶欲しい」


 求められているようなそんな格好に心臓が早鐘を打とうとし――自制心でどうにか抑える。


「はいはい、お嬢様は我がままですね」

「ワールドイズマインよ。この世は私を中心に回ってるの」

「そう」


 頭を振ってこの傲慢の塊りに呆れを示し、ティーセットを取り寄せる。フワフワと浮かんでくるそれを受けテーブルに置き、茶葉を入れ湯を注ぐ。


「その青いのは――ジノリ? だったような」

「ジノリのベッキオローズブルーだよ」

「そんな細かい名前覚えてないもん」

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