輝々
ちっちゃくなっちゃった☆その8!

 私はどうやら、色々な漢方をセブに試しているらしい。十数ページ前に『大柴胡湯(だいさいことう)』とデカデカと書かれてた。大柴胡湯は肝機能障害の改善という効能があるんだけど、これはアレだろ、とあるサイトさんが、セブの顔色がいつも悪いのは肝臓の機能が悪いからじゃないか? って書いてたのが原因だろーな。『一か月飲ませてみたけど改善の兆候無し』とも書かれてた。

 そこから数ページにわたってほかにも肝機能障害に良いと言われる漢方がずらずらと並んで、最後に『体を温めるのが先決だよね』と書いてあった。私も匙を投げたっぽい。滋養強壮のスッポンと、肝障害予防と微温性のある生姜湯に落ち着くつもりみたいだ。だからなんで漢方なんだ。それとも魔法薬はもう一通り試したのかな……? その可能性が高いなぁ。


「アイスはいらないのか?」


 フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーの横を通る時にセブが聞いてきたけど、首を横に振った。発光ダイオードみたいに内側から輝くアイスを食べたいとは思えないもん。

 荷物は先にセブの部屋に送って手ぶらで一緒に店をひやかして回る。フローリシュ・アンド・ブロッツ書店でセブと一緒に立ち読みして何冊か買って、花屋の隣の喫茶店でサンドイッチを食べた。横から襲ってくる肉食花を焼いたら店内から喝采が上がり、おまけでオレンジジュースが出た。「まだ小さいのに」とか、「天才だ」とか、「将来が楽しみ」だとか言ってた。












「楽しかったね」

「ああ。楽しめたようで良かった」


 今日一日だけは、私とセブは自由なのだ。夏休みは夏休みでセブと一緒にいられるけど、そういうのじゃない日に一緒にいる。セブが『私のために』休んでくれた。そんな特別が嬉しくて、初めてで、帰りの煙突飛行煙たいのも狭苦しいのも逆に楽しかった。

 ホグワーツのセブの部屋に着いた。腕輪の留め金が緩んで、自然にカシャリと外れる。視界がぐにゃりと歪んで、高くなる。私の二十八年の記憶と腕輪に残されてた記憶が流れ込んで来て、つい笑っちゃった。この腕輪は――


「戻ったのか」

「うん。あのね、セブ。この腕輪はね」


 子供が幼い頃何もしてやれなかった父親が、その時には何もしてやらなかった子供の望みを叶えたくて作ったんだってさ。


「今日は一緒に遊んでくれてありがと、セブ」









 あの頃の私が望んでいたのは、セブと過ごす、優しい一日だったから。

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