輝々
アブたん苦労涙日記

 鈴緒様の我が侭はいつものことだ。それの大小に差はあれど。


「軟水で緑茶が飲みたい。硬水で飲むと苦いばっかりだもん」


 軟水と硬水とは何のことやら聞いてみれば、水の硬さのことで、ヨーロッパは硬水で日本は軟水なのだとか。


「硬いから色も出にくいし苦みばっかりでてくるし」


 日本のお水が欲しいという鈴緒様。水はどこも一緒だろうと思うのだが。


「というわけで」

「――と、いうわけで?」

「日本に遊びに行ってきます。アブたんお留守番よろしこ」


 日本の水持って来ーい! かと思われたそれは、予想以上に酷かった。


「お水くらいこちらがどうにかしますから! 鈴緒様はここにいらしてください!」

「嫌だ、久しぶりに日本に帰るんだ! 良いじゃないか里帰りくらい。一月くらいかけて日本全国美味いモン巡りしてくるからさぁ!」

「話が緑茶から離れてますよ?!」

「気にするな!」


 鈴緒様は我が君に屋敷を一邸任されている。まあ鈴緒様だから引きこもって滅多に外に出ることもないし、我が君は毎晩のようにこの屋敷を訪れている。我が君は鈴緒様がいれば機嫌も良く、任務に失敗しても殺されるまではいかない。その精神安定剤がいなくなってしまったら、私の責任が問われ、そして――殺される!


「ヴォルディーへの説明役に任命する! 実家に帰らせていただきますって伝えといて!」

「私を殺す気ですか鈴緒様?!」

「はっはっは、何を言うやらアブたんってば。では、アデュー!」


 鈴緒様は片手をスチャッ! と上げてウィンクをすると、姿くらましをして消えた。捕まえる暇もなかった。


「殺される……我が君に殺される……!」


 四時間ほど後姿現わしで来られた我が君に伝えれば、それだけで死にそうな殺気と呪文を向けられた。鈴緒様は一月帰ってこなかった。

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