輝々悪戯失敗
「鈴緒、今日は何の日か知ってる?」
「ハロウィンだよ畜生」
おめでたいことにね! と叫ぶ鈴緒に満足する。僕は手を突き出した。
「鈴緒、トリック・オア・トリート?」
「トリートなんか用意してるわけがない」
「じゃあトリックだね」
ソファーの上に転がって元気のない鈴緒。いつもは僕が悪戯されてる――というか、負けてる(認めたくないんだけどね)――から、今日くらいは僕が悪戯したって悪いことはないだろう?
「分かったよ、トリックだろーが苛めだろーが拷問だろーがどうとでもしてくれ!」
「苛めや拷問なんてしないよ。僕を何だと思ってるのさ?」
「夜の帝王――あ、これじゃ女の敵だった。闇の大魔王かな」
「鈴緒がいつも僕をどういう目で見てるのか良く分かったよ」
僕はそんな、ベルトが緩みっぱなしの男じゃないんだけど。それと何さ、闇の大魔王って。
「あながち間違ってないでしょ、特に『寝台の帝王』とか『エロの大魔王』とか!」
「どうしてそっちの話になるのかな?! さっきより悪化してないかい、それ?!」
そんな噂が立った日には、鈴緒の明日はないと思ってよね。
「さあ、鈴緒。トリックの時間だよ!」
「わあ、婦女暴行罪で訴えて勝つよ!」
「何でさ?!――もう良い、有無なんて言わせないからね!」
僕は杖をかまえた。
「うお、先生助けて! リドルが襲ってきた!」
「問答無用!」
僕は写真で見た、日本のゲイシャの格好になるよう魔法をかけた。だけど……。
「ふむ、これはこれで、酷い悪戯だな……。な? リドル?」
「……ごめん、鈴緒」
僕はセイザという辛い座り方をさせられ、ソファーにふんぞり返る鈴緒を直視できず俯いた。
鈴緒にかけた魔法は成功していた――僕がしたんだし当然――だけど、その姿は恐ろしく、似合ってなかった。鈴緒に言わせると、ゲイシャは大人の女性がなるものらしい。鈴緒に着せたキモノはあだっぽ過ぎて凄く不自然だ。似合う似合わないを考えずにしたから、僕もこれには失敗を悟ったよ。
「で、反対呪文は?」
「……ごめん、一日で効力が切れるようにはしてる、よ?」
鈴緒が脱いだりしないように魔法を編みこんでいる。つまり明日の昼までずっとこのままということだ。
「リドル。さっき私が言ったことを覚えてるかな?」
どのことだろう? 分からない。首を傾げれば、鈴緒がニンマリと笑った。
「よう、『エロ大魔王』?」
この後二週間、鈴緒は僕の名前を呼んでくれなかった。
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