輝々
チョコレートの男

 夕食を終え、談話室で紅茶を飲む。鈴緒に淹れさせたら不味くなるのは分かってるから僕が淹れた。ソファーにもたれかかっていた鈴緒がガバリと身を起こす。


「リドル、トリトリ!」

「……何、その呪文」

「何か渡せ。さもなくば悪戯の刑に処す」


 手を突き出して言う鈴緒に、僕は溜息を吐いた。


「ハロウィンは明日だよ、鈴緒。気が早すぎる」


 鈴緒はハン! と鼻を鳴らすと、さも当然のことのように言ってきた。足を組み、偉そうに胸を張った。


「何を言うのやら。私が毎年ハロウィンの日は倒れてるのを知ってるだろ? 呪文を唱える余裕なんてあるもんか!」


 なるほど、鈴緒は毎年ハロウィンやその他――盛大なお祝いが開かれる時には前後不覚になっている。ハロウィンを楽しみたかったとしても、参加は先ず不可能だ。


「じゃあ、はい。鈴緒」


 僕はポケットを探り、鈴緒の手に前回のホグズミードで買ったお菓子を落とした。栄養不足で青白い顔をした鈴緒には、体が温かくなるようにチョコレートをあげよう。


「ちょ、チョコレート……だと?!」


 鈴緒は立ち上がり、一歩引いてワナワナと震えだした。僕もつられて立ち上がる。


「す、鈴緒?」


 鈴緒はお菓子を全然食べないし、ホグズミードにも行こうとしない。茹でた野菜や果物、生野菜のサラダとかしか口にしない。草食動物みたいだ。

 でもチョコレートはどの子も好きだろうし――嫌いだっていう人を僕は見たことがない。もちろん僕も嫌いじゃない――、鈴緒も喜ぶだろうと思ったんだけど……。


「チョコレートはリーマスって決まってるんだ、リドルンの馬鹿!」







 意味不明に罵られた。鈴緒は足音荒く部屋に引っ込み、僕は一人寂しく談話室に残された。一体何だったんだ……?



 鈴緒の意図が掴めない。――いつものことだけどね。

- 2/133 -
prenex




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -