輝々
私は決戦へ行き、間違えた決戦兵器

 湿気のせいでただでさえ跳ね回る癖っ毛が更に元気良く跳ねる。ブラシで何度何度も撫でつけるんだけどぴょこんとアホ毛が収まらない。水を付けても何をしても収まらないんだからもう……。


『何してるの、ねえ何してるのー!?』

「うるさい黙れ」


 鏡に映る私の背後に、古今東西の武器を組み合わせた感じの見た目をしたヤツがいる。餓鬼っぽい口調でねえねえと私に声をかけるそいつは一般人には見えない存在だ――私だって何にも見えてない、私は何も見てないし聞いてもない。見えちゃいけないものが見えるなんてことはない。

 アホ毛は諦めて洗面台を離れ、バターを塗って焼いてたトーストをオーブントースターから出してテーブルへ。幽霊も付いてくるけど無視。

 トーストを口の中に押し込んでからパソコンを開いてメールを確認すれば、ジョースターさんからのメールがあった。一体どうしたんだろうと思いながらメールを読んで行くと……なんで私がエジプトに呼ばれてるわけ?

 私のスタンドが必要なんだと言われても、私、コイツ苦手だから使いたくないんだけど。っていうか私はこいつがスタンドだなんて認めてないし見えることも認めてないんだけど。


『ボクが必要なの!? ヤッタァ! 行こうよ七恵、ねえ!』

「黙ってちょうだい。私はあんたを使うつもりなんてこれっぽっちもないんだからね」


 ある日突然目覚めた異能を、私は今までに一度も使ったことがない。だってそうでしょ? こいつの見た目って武器の塊なんだから。医者を目指してる私の目的と正反対の能力なんて、あっても無駄にしかならない。

 本人の証言によれば、こいつは「現時点までに開発された武器全て」で構成されてるらしい。そのせいなのかずんぐりむっくりの鈍重な見た目で……花京院くんとか空条くんのスポーティーなスタンドを見た後だったから余計に凹んだ。


『ねえねえ七恵、ねえってば! ねえ、エジプトに行くよね!?』

「エジプト旅行も悪くないと思わなくもなかったけど、あんたが一緒に来る時点で何もかも嫌になった」


 湧きあがりかけていた気力も消え去った。今の私は無気力の滓だ。気力というフロンガスの抜けた風船、それが私。

 でも、呼ばれてるからには私が必要なんだろう。仕方ない。


「行くわよ、エジプト」

『ヤッタァー!』


 私のスタンド(だとは認めてないもの)【ティケッ・トゥ・ライド】は上下左右斜めと跳ねまわる。床に消えたと思ったら生えてきて、なんていうか気色悪い。

 エジプト行きのために荷物をまとめて戸締りして徒歩七分の空条さん家に行けばそのまま空港へ連れていかれ、私は空の人になった。






 飛行機の中で「地球は青かった……」と名言を残したり、急病人が出て「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー!?」って言葉を生で聞いたりしながらエジプトへ到着した。飛行機の中で隣に座ってた幼稚園児にたけのこの里を盗られたことは絶対に忘れない。

 で。合流したジョースターさんによると、わたしの【ティケッ・トゥ・ライド】はジョースター家の宿敵であるDIOとやらに最適なスタンドらしい。名付けて『食らえ紫外線』攻撃……は?


「旧ナチスドイツで開発していた紫外線照射機じゃ。それを使えばDIOを簡単に倒せるはず!」

「紫外線を照射されて苦しむのは美白派のお姉さん方だけだと思うんですけど……なんでそんな兵器と表現し難いものを兵器として開発したのか気になりますね」


 ティケッ・トゥ・ライドに紫外線照射機を出せるかと聞いたら、問題なく出せると言われた。もうどんな顔をすれば良いのか分らない。

 そしてジョースターさんと一緒に行動してイギーをもふもふしたり肉球をぷにぷにして「これが愉悦……!」とティケッ・トゥ・ライドのせいでささくれ立った心を癒したり、ジョースターさんと空条くんのジョジョペアの強さにちびりそうになったりした。そして最後の決戦で社会の窓が全開の黄色い人に『食らえ紫外線』を放てば、彼の左腕を飛ばすことに成功した。――でも、すぐに再生しちゃったら意味がないと思う。それからはハイエロファントグリーンで罠を張る花京院くんがどう見ても隙だらけだったのとすることが何もなかったから彼に紫外線を照射したり、空条くんに股裂きにされて倒れてる黄色い人に紫外線を照射した。

 戦いの後、ティケッ・トゥ・ライドの汎用性にジョースターさんがSPW財団に入らないかと言ってきたけど断った。つまりそれって人型兵器になれってことでしょ? わたしは平和に暮らしたい。――そう思ってた時もありました。

 私は医学部に二浪した後、親の冷たい視線とジョセフさんの「入ろうぜ」という勧誘の言葉に負けてSPW財団に入った。ジョセフさんは財団の中でもかなり重要な地位にいるのと、不動産王であるというこの二つから命を狙われることが多いのだとか。つまりボディーガードですかそうですか……。こん棒からミサイルまで自由自在な私は本当に便利だってことは分るけど、この扱いは泣きたいですよ。


「どうしよう承太郎くん! タマタマが、タマタマが死んだ!」

「女が下品なことを大声で言うんじゃねぇ」

「え、ポケット○ンスターのことだよ?」

「同じ意味だろうが」


 スージーQさんによるジョセフさんへの折檻が見てられなくて日本へ行く承太郎くんに同行してここまで来た。典明へのお土産は日本のゲームソフトで決まりだね。


「タマタマはモンスターの名前だよ。ポケットモン○ターだってゲームの名前だし」

「紛らわしい」


 ポケ○ンは英語で男性のおまたのことだから、英語圏では紛らわしい。でもわざわざカタカナ英語で私が言ったことも考えて欲しいよ。

 ――ちょっとした休暇のつもりだった帰国が物騒なものになり、ティケッ・トゥ・ライドがまた(そのままの意味で)火を噴くことになるなんて、私は想像だってしたくなかった。







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2013.06.21

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