輝々
彼女が認められた訳

 仕出し弁当の依頼を、オーナーが二つ返事で受けてしまった。――仕出し弁当なんて作ったことないし、彩りとか分らないんだけど。一体誰からの依頼なのかと思えばグルメパレス関係者の会合で食べたいということらしい。二十個くらいならまあ作れなくもないかなって思うけど……その分給料に上乗せされて当然だろう。え、何で泣くのオーナー。これは正当な報酬だから返さないよ。

 仕出し弁当ということだけど、確か和洋折衷でも構わない――はず。お米とハンバーグを一緒に入れてる時点でもう和も洋もない気がするし。

 じゃあエビフライとスパゲティ、ポテトサラダ、筑前煮、焼き魚、炊き込みご飯で良いかな。箸休めに沢庵と浅漬け、デザートで黒豆。ちなみに食べ合わせの良い悪いなんて考えてない。今の時点で私が作りやすいと思ったものを作って詰めるだけだ。

 料理の中でも下ごしらえは一番大事な行程だと思ってる。誰だって味のしみ込んでない唐揚げを食べたいとは思わないように、ちゃんと下味を付けた食材は元のままよりももっと美味しくなる。それを疎かにする奴は料理人を辞めてしまえ。


「……これは?」


 弁当に入れる魚は、数日前から粕漬けにしていた。ほのかな甘みが香って美味しいんだけど、これは一体どういうことだ。


「この、ゴミ箱の中身、どういうことです?」


 中には、見るも無残な炭にされた粕漬けのなれの果てが何匹も入っていた。見える範囲内で七匹あるってことは、その下にもう何匹も焼け焦げたのがあるってことだ。

 怒りがふつふつと沸き、握り締めた拳では指先と爪が真っ白になった。

 知っていた。まだ十歳になったばかりの私が、料理長顔負けの味を出していることで妬まれていると。だけどこれは無い。あってはいけない。


「これを私に何も言わず、勝手に焼いたのは誰ですか」


 料理なんて本当はしたくない。誰かの作る料理に舌鼓を打っていたい。料理を作るなら、家族や親しい人に対して作るのでありたい。でも、私のその思いなんてこの場では全くの無視だ。――分ってるんだよ、職場でそんなことを言っちゃいけないってことくらいさ。だから文句も言わず続けてきたんじゃないか。

 でもその結果がこれってさ、ありえないだろう。

 私を囲む料理人たちの中から一歩前に出て私を見下した目で見下ろしたのは、私より一年先にここで修行を始めた料理人だった。まだここへ来て半年の私より一年の長があるということは、私の三倍の期間ここにいるってことだ。それなのにこんなことをしでかした。こんなことができた。それがもうなんとも言えない。


「餓鬼が、自分の料理が認められたからって調子に乗ってんじゃねーぞ。新人のくせにデカい顔しやがって、おい」


 相手が顎を反らして、まるで不良のようにそう言った、その股間を、私は――力いっぱい蹴りあげた!


「んぅぶわぁ!?」


 言葉にならない悲鳴を上げてしゃがみ込むソイツの肩をまた蹴れば、ゴロンと横に転がった。


「そっちこそ何を勘違いしてんの。私がここに来たのは無理やりで、デカい顔なんて一度だってしたことない。でも私が一番怒ってるのはそこじゃないんだ」


 ゴミ箱を指さして、なるべくゆっくり、怒りで我を忘れないようにしながら、伝えた。だってこれは、料理人であること以前に、一番大事なことだから。


「あんたは食材を子供じみた嫉妬で無駄にしたんだ。あの魚を釣った人へも、あの魚へも、誰にも顔向けできないことをしたんだ。あんた、料理人辞めなよ……これじゃどんな技術も才能も、食材の上を滑るだけだ」


 好きで作ってるわけじゃない。でも食材には正直でいようとしてる。だって私は、お米一粒には七人の神様がいるって聞かされて育ったんだから。

 悶絶して私の話を聞いていたのか聞いていなかったのか分らないソイツを蹴って厨房から追い出し、仕出し弁当の内容を一部変更せざるを得なかったから、それはもうギュンギュンと頭を働かせた。マグロのステーキ? ブリ大根? ヒラメ、ホッケ、キンキ……旬の魚を使った料理を必死に思いだして、そうだと思い出した。

 カキのフライ――エビフライがあるからと言って、カキフライを出してはいけないということはない。カキフライだ。

 そうして無事なんとか仕出し弁当を全部作り上げた私の元に、何故かその後弟子希望者が殺到した。一体何なんだ!





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 チャットで閲覧者一人と書かれていたのを原動力に、深夜三時に書いた分。子供だったため、原作軸よりも言葉遣いが微妙に荒い。
 楓様のみ持ち帰り可^^
10/21.2012

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