輝々
きっとそれは愛なのだ

 ハロウィン当日の今日、廃墟にいるのは女性陣三人とクロロ、シャルナーク、フィンクス、ノブナガ。フェイタンは「そんな軟弱な行事、反吐が出るね」と地面に唾を吐き、ウボォーギンとフランクリンはジャンケンに負けて食べ物の買い出し――盗み出しとも言うけど――、ボノレノフは同族の生き残りとのパーティ、コルトピは本業の都合が合わなかったとか。つまり、リンネが突撃する相手は七人ってことだね。反応が楽しみだ。

 可愛いリンネが悪魔の恰好をしたら、ただでさえ可愛いのに更に可愛くなってしまった。ぱたぱたと黒い尻尾や黒いコウモリの羽根が揺れるのも、頭から二つぴょこんと生えた三角形の触角も、ふにふにほっぺのリンネの可愛さを十二分に引き出している。ホント、幻術って便利だね。

 お菓子を用意してない人はどんな目に遭わせられるんだろうと思うとゾクゾクするね。


「マチ! とりっくおあとりーとだぞ!」


 最初のターゲットはマチか。マチは子供というモノが苦手らしいけど、リンネは見た目が幼いだけだからね……精神年齢も能力も大人並みだから気楽に付き合えるようだ。


「ちょっと、そんな蹴っちゃいそうなサイズで歩かないで大きくなりな」

「何を言うかマチ。こういった行事は幼児がする方が可愛いだろう? 十四の餓鬼が『トリック・オア・トリート?』なんて言ったら、性的いたずらを仕掛けようとしたいがための呪文にしか聞こえないぞ」

「あんたの中で十四歳の餓鬼ってのは何でそんなに餓えてるのさ。……ああ、ヒソカの教育か。昨日パクとシズクの三人で焼いたから、二人からもクッキーがあるはずよ」

「ありがとうマチ。じゃあ次はパクに言ってくる」

「行ってらっしゃい」


 ボクはそんな教育をした覚えはないんだけど。


「パク、とりっくおあとりーとだぞ」

「可愛い悪魔君ね。クッキーよ」

「ありがとうパク。次はシズクに言ってくるぞ」

「ふふ、行ってらっしゃい」


 パクノダはリンネと視線の高さを合わせるように膝を突いてた。本当に子供好きなんだねぇ。


「シズク、とりっくおあとりーとだぞ」


 シズクはきょとんとリンネを見下ろし、「とりっくおあとりーと……?」と悩み始めた。基本的に興味がないことはすぐに忘れる人だってことは知ってるけど、まさかリンネの初めてのハロウィン行事を忘れたなんてことはないよね?


「……ああ、クッキー作ったんだった。はい」


 ボクの殺気を気にすることなくマイペースに記憶をサルベージしたシズクは、鞄の中からクッキーの袋を取り出してリンネに渡した。


「さっき、あげる分だって忘れて二枚食べちゃった」

「二枚くらい別に気にしないぞ。ありがとうシズク」


 次は誰のところに行くのかなと思えば、フィンクスのところだった。近かったからだろうね。


「フィンクス、とりっくおあとりーとだぞ」

「おお、すまねえなリンネ、何も用意してねーわ」


 ニコニコと笑いながらそう答えたフィンクスにリンネが口を横に広げてニヤリと笑む。さて、リンネは一体何をしてくれるんだろうか。


「それならとりっくだぞ。フィンクスはかぼちゃジュースになってしまえ」


 リンネがそう言った瞬間、コンクリ片くらいしかなかったこの廃墟のホールに、直径八メートル程の金属製の巨大な鍋が現れた。驚愕に声を上げるフィンクスに構わず空中に現れる巨大な皮のない南瓜――それが一瞬で三十二分割されたかと思えば、鍋の中にボトボトと落ちた。どうやら鍋の中には水が張ってあるらしく水しぶきが上がった。上がる悲鳴、鍋の下には炎が灯り、また空中に現れた木ベラが中をかき回す。


「なんだこりゃー!?」

「とりっくだぞ」

「そんな冷静な解説はいらん!」


 そんなコント染みたことを三十分ほどしただろうか。リンネの幻術がふっと消えたと思えば、疲労困憊のフィンクスが大きなコンクリ片の上で荒い息を吐いていた。いやあ、良い見世物だったね。マチやパクノダは不憫そうな目を向けてたけど、シズクやクロロはまるで無視だったし。


「次はノブナガ! とりっくおあとりーとだぞ!」

「おー。だが洋菓子の持ち合わせはねーんだ、これやるから食っとけ」


 ノブナガが取りだしたのは栗饅頭だったけど、洋菓子じゃないといけないというルールはない。ホクホク顔でお礼を言うリンネは世界で一番可愛い。


「シャル、とりっくおあとりーと!」

「ハイハイ、お菓子じゃないけどプレゼント。リンネの手でも使いやすいサイズの携帯」


 地面に座り込んでパソコンを弄って何をしてるのかと思ったら、どうやらリンネの携帯を自作していたらしい。リンネの年で携帯を持つなんてまだ早いと思うんだけど、まあ喜んでるから良いかな。


「うおお、これは猫か!?」

「うん、オレとお揃いね」

「猫って羽根が生えてたっけか」

「可愛いから良いだろ? オレたちの連絡先はもう入ってるからね」

「ありがとうだぞシャル!」


 携帯をどこに仕舞うかと思えば、リンネは暫くポケットを叩いて確認した後、カボチャのショルダーに入れていた。ウチの子は一挙一動さえ可愛い。真理だね。


「さあクロロ! とりっくおあとりーとだぞ!」


 シュバッと音が出そうなほど勢い良く差しだしたリンネの手に、クロロは中の見えないビニールに包まれた何かを置く。サイズと形からしてお菓子の詰め合わせの缶かな……でもそれほど重そうでもない。


「開けても良い?」

「ああ、もうお前のだからな」


 クロロが作り笑いではない笑顔を浮かべたのを見て、リンネが穢されたような気分になった。ショタコンはお呼びじゃないよ。ウチの可愛いリンネに近寄らないでくれないかな。

 ビニールの口はリボンで縛られているだけだったから蝶結びは簡単に解けた。ビニールに頭を突っ込んで中身を取り出そうとするリンネを激写。ウチの子は何しても可愛い。


「鞄?」


 リンネが取り出したのは紺色の小さなリュックだった。子供用のサイズでありながら可愛らしすぎないところが良いね。さっそくそれを背負ったリンネはもちろん可愛い。カメラが唸るよ。


「ありがとうクロロ」

「いや、お前が喜ぶとオレも嬉しい」


 爽やかに微笑むクロロに吐き気がする。このショタコン、ボクの世界一可愛いリンネの貞操を狙ってるに違いないよ!!

 顔を背けてハンカチをギリギリ噛みしめていたら、膝に小さな手が乗った。


「パパ、最後はパパだぞ。とりっくおあとりーと」


 ボクの膝に手を突いてボクを見上げるリンネを抱き上げる。ボクそっくりなこの髪も、ボクそっくりなこの鼻筋も、ボクそっくりなその性格も、何もかもが愛しくてならない。リンネがリンネであるというだけで全てが愛しい。


「ボクからのプレゼントはこれさ☆」


 腰に巻いた風呂敷から取り出したのは、ボクとお揃いの上下。親子でペアルックって可愛いじゃないか。マチが「リンネだけがするなら可愛いのに」って顔をしかめてるけど気にしない。クロロが「リンネが穢されそうだ」とか言ってるけどショタコンの妄言なんて気にならない。


「ありがとうだぞ、パパ! さっそく着れば良いのか?」

「ウン☆ それを着て写真を撮ろうね☆」


 目を輝かせるリンネの柔らかい髪を撫で、着替えを手伝って服を脱がせる。

 ああ本当に、リンネといると世界がより一層楽しくなる。何もかもが愉快に見えてくる。それはきっとリンネが興味深い生き物だからってだけの理由じゃなくて、リンネがボクの息子だから。


「愛してるよリンネ」

「きっと愛してるぞパパ」

「……きっとって何?」


 世界は面白い。



+++++++++
 深夜のノリとテンションで書いたら文字数がなんだかいつもの倍以上になって挙動不審になった。ちなみに、ヒソカがクロロをショタコンと罵っているのは全くの冤罪です。マリエ様のみお持ち帰り可^^
10/20.2012

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