輝々
シーザーなのは(ry〜トルコ旅行編〜

 オスマントルコが崩壊したのが千九百二十二年のこと――つまりトルコという国は新政権が樹立してからまだ世代が変わってないってことだ。そんなまだ治安が悪そうな国に何故旅行など洒落込まにゃならんか――それは親父の遺したモノにあった。


「どーしてコーランがあるんだよ……」


 親父が死んだと言うことで、ネス家の財産は全て俺のものになった。正直に言うとこんなにいらん。だがネス家唯一の後継者である俺に逃れられる道はない。諦めて宝物庫に納められている物を確認しようと屋敷僕妖精に案内させたところ、出るわ出るわ色々と。イギリスが拿捕したトルコ船にあったというコーランやら目玉モチーフの厄除ナザールボンジュやら……あれ、コーランってヤバくね?


「どうしようナイジェル先輩。流石にこれは返さねばヤバい気がするんです」

「そう思うなら返しに行けば良いだろうに」

「郵送で許してくれると思いますか」

「お前はどう思うんだ」

「訊かないでください」


 そんなの、馬鹿にしてんのかって怒られるに決まってる。だがだからと言って手渡ししてもボコボコにされそうな気がする。

 人任せに出来ることではなし、コーランを返しに行くぞと言えばジョージ君の息子トビアスが『僕も行きたい!』とかぬかした。遊びじゃありません、仕事ですと言い聞かせる物の、流石はイギリス人の糞餓鬼。『おじさんは仕事をしていれ良いよ、僕は遊ぶから!』とか言いくさり、ナイジェル先輩に上目遣いでお願いをしだしたものだから――結果は推して量るべし。お土産のチャイで我慢してろよ糞餓鬼が。


「おじさん、アレ買って!」

「君のことが大好きな伯父さんに買ってもらいなさい」

「え、ヤダ! おじさんお金持ちなのにケチだね!」

「黙れ糞餓鬼」


 血の涙を流しながら俺を睨むナイジェル先輩のいる方向には顔を向けられない。


「ねえおじさん、バグラヴァ? とかいうの? 買ってよぉ!」

「あんな砂糖の塊みたいなモン買うかボケ。キロ単位でしか売ってないとか冗談はよし子さんだろ常識的に考えろ。ていうか欲しいなら伯父さんに言いなさい」


 何故か俺に懐いている――とはあまり思えないが先輩によるとそうらしい――トビアスをいなしつつイスタンブルの街を歩く。イスタンブルは横長のトルコの中で比較的ヨーロッパに近い場所にあり、世界一美しいモスクと讃えられるブルー・モスクことスルタンアフメト・モスクがある。ついでに俺は誤ってスルタンアメフト・モスクと読んでしまったことがある。アメフトじゃねぇ。

 ついでにこのイスタンブル、西ヨーロッパと鉄道で繋がっていることもあって旅行客が多く、外国人が珍しくない観光地だからここを選んだ。ホラ、オスマン帝国時代に海峡封鎖しちゃったり共和国樹立時に攻め込んじゃったりしたしさ。目がね、冷たいんですよ。肩身が狭いんです。

 トビアス君は先輩にお返ししてモスクへ足を向けた。コーラン返さなきゃならん。ああ怖い怖い……。





 手紙を先に送っていたおかげで、導者とはすんなり会うことができた。導者は白いひげがご立派な六十代後半の人で、俺が木箱と布で厳重に包んだコーランを渡せば、目を潤ませながら何度も礼を言った。


「戦時中でしたから、コーランを燃やされることもありました。それが無傷で帰って来たのです。本当に有難う」

「いえ、当然のことをしたまでですから」


 まさかボコボコにされると思っていたとは言えず、キリリとした表情を保ってそれらしく誤魔化した。

 イギリス人なのに出来た人間だと、とある天上の方の歓心を買っていたとか知るわけがない。


「ねえおじさん、僕、ハットゥシャ遺跡に行きたいな!」

「恐ろしいことを言うな、餓鬼」


 観光組と合流して一服したと思えば、トビアスが恐ろしいことを言いだした。そんな案は却下だ! 興味のある奴しか行かない観光地(?)なんて、イギリス人の肩身なんて狭いに決まってるだろ。


「フェティエ、エフェス、アンカラ、クシャダス、アンタルヤ!」

「比較的有名な観光地を並べれば良いってモノじゃない」

「伯父さぁん、おじさんが苛める!」

「イネス!!」

「使えるものは使う主義もここまであけすけだと逆に潔いな!」


 結果、先輩に引きずられてトルコを巡ることになった。あのね、トルコの観光ってそれぞれ西半分・東半分だけを巡るようにツアーが組まれるくらいに大きいの。何で一週間の滞在でトルコ観光地巡りしてるわけ?


「イシュタル像とか、見たくなかった……」


 カメラで何を撮るかと思えばトビアスばかり撮っている先輩は無視してイシュタルの石像を見上げる。あと四十年もせずにGSが始まる。巻き込まれなければそれで良いとは言えない――たった一人の少年に全てを任せきってしまうなんてことは、大人として、未来を知っている者としてできない。


「魂の牢獄――死ぬことができないってのも、良いことばかりじゃないってか」


 この時、とある性同一性障害の方々の保護者である(元)女神様から目を付けられたとか、俺が知るわけがない。





++++++++
 リクエストを見たしているのか不安である。というか満たせていない。どうしよう。とりあえず『(済)』マークを付けさせて欲しい(汗)
2012/05/05

- 122/133 -
prenex




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -