輝々
酒が入ると人は変わる

 時は三月十四日。仕事を早々に打ち切った俺を代表とする男衆は、まだ日も地平に遠いうちから酒宴に雪崩れ込んでいた。しかし乾杯の音頭を取ったオレのマグに友人の誰もマグをぶつけてくれなかった。


「おかしい」


 リドルやアブラクサス、オリオン達がミュンヘンビールに舌鼓を打っているのを見ながら呟く。トーマスもナイジェル先輩も向こうの輪に入ってしまって寂しいことこの上ない。


「どうしたんですか、イネスさん」

「いや、年来の友人であるはずの奴らがだな……恩をあだで返しやがったというか何と言うか」


 そりゃあ運も実力のうちと言うがな、ナイジェル先輩が週休三日で固定なのもトーマスが気の良いおっさんたちと楽しく仕事出来ているのも、俺がそうしたからだ。多少の感謝があっても良いんじゃないのか。日常的に感謝しろなんて言わん、せめて酒に付き合えよ。魔法大臣って激務なんだぞ、ストレスで禿げかけては増毛剤ふりかけてるんだからな。


「そんなことはありませんよ、みなさんもイネスさんのことを大切に思っていますって」

「――あれで?」

「……ええ、まあ、きっと」


 俺は泣き上戸じゃないはずなんだが、何故だろう、涙が出てくる。


「セブルス君、俺には君だけだ……! 君しか頼れないよ!」

「あ、すみません。私にはリリーがいるので、すみません」

「俺がゲイだって誰が言ったよ!!」


 ホワイトデー(まっしろになる日)とは良く言ったもんだ、色んな意味で真っ白になりそうだわ!


「そうなんですか? バレンタインにチョコレートを配り歩いているからゲイだという噂が……未婚ですし」

「オゥマイゴーシュ! 裏目過ぎる!!」


 友チョコの感覚で配ったっつーのに!


「あれは親愛の情だっつーの! 省の全員に配った俺が無差別なゲイか! マッチョマンから枯れた爺さんまでパックンチョか!!」

「まあ……ほとんどの方は理解しているでしょうが、勘違いしている人もいるみたいですよ」


 ゴシップ紙に『イネス・ネス大臣はゲイだった!?〜まさかの職員全員範囲内〜』なんて記事が載りでもしたら、ただでさえ遅れている結婚が更に遠のくんだが!?


「ささ、嫌なことは忘れて飲みましょう、イネスさん」

「うわーん、セブルスくぅん」


 俺の味方は君だけか。ビール、ナポレオンのVSO、ジン、貴腐ワイン、テキーラ、焼酎に老酒。世界地酒巡りと題して俺が全世界から集めた酒を開けていく。林檎酒なんて樽ごと買ったからな、好きなだけ飲めよ。



 幾杯も開けるうちに夜も更け、ナイジェル先輩は「セブルスを毒牙にかける気かイネス!!」と酔っぱらった勢いで特攻をかけてきたからセブルスに抱きついてもらった。トーマスと言えばゲラゲラ笑ってやれ襲えだのなんだのと囃したて、リドル達は俺を押さえこんでレスリングごっこを始めた。オリオンとアブラクサスが俺を拘束してリドルが床を叩きながら「ワン! トゥー! スリー!」と元気一杯だ――明日は二日酔いで死ぬだろうがな。







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 リク主様のみ持ち帰り可。混沌としたホワイトデー^^
2012/03/15

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