輝々
恋情には程遠い(前)

 マチがバレンタインチョコを作った。その情報をリークしてくれたのはパクノダで、彼女の誘導によりハート型のチョコを作らせることに成功したらしい――パク、でかした!

 蜘蛛の中には三人しか女がいないためか特に仲が良く、昨日は三人で集まって女子会というものをしたそうだ。その輪に飛び込む勇気はないが、自分たちで作った菓子をつまみながら紅茶を楽しむという『女子会』に参加しているパクとシズクが羨ましくてならない。

 ところで、今日はバレンタインデーだ。好きな相手に花を贈るのが普通だが、マチの育ったところでは女が好いた男にチョコレートを贈るらしい。所変われば風習も変わるな。だが恋愛に疎いマチのことだから、ハート型のチョコレートを含意なく――ザンザスあたりに渡してしまう可能性がある。好いた相手以外に渡すチョコレートのことを友チョコや義理チョコというらしいが、オレが欲しいのは本命だけだ。ハート型以外受け取る気はない。

 記念日には全員で集まって酒盛りをすると決めた昔のオレを、褒めてやりたいと思う。






 今私はパクと二人で集会所へ向かっている途中だ。シズクは忘れていた用事があったとかで遅れるとのこと。真昼間から酒盛りをするのは健康に悪いかもしれないが、楽しいから良いと思う。背負ったリュックには酒とつまみの食材がパンパンに詰められ、手には昨日用意したチョコレートを持っている。傍目には滑稽な姿だ。集会所が単車も車も使えない場所にあるのだから仕方ない。


「そういえば男たちは何を用意してくるのかしらね。花束なんて渡されても活けるための瓶なんてないし」

「コップで代用するんじゃないか? 水はあるんだから」

「そうね。私としては花束よりもおつまみになるものをくれれば有難いのだけど、それだとロマンチックじゃないわよね……」


 パクは苦笑して頬に手を添えた。


「チョコレートもロマンチックとは言い難い気もするが? 元はと言えば祖国のチョコレート業界の陰謀だよ」

「良いじゃない。用意することに意味があるの」

「そうか」


 そういえば昨日はパクにグイグイと圧されるまま、ハート型のチョコを作ってしまったが、渡す相手がいない。別に好きな男がいるわけでもなし……そうだ、ザンザスにあげよう。


「マチはチョコレートを誰にあげるの?」

「蜘蛛の全員とザンザスと友人さね。大量に作るのは面倒だけど、まあ年に一度のことだから頑張ったつもりさ」


 友人と濁してはいるが、つまりは守護者達だ。あいつらにはチョコレートケーキを等分してあげれば問題ない。蜘蛛にそれをすると一グラム単位で争うから個別に分けてある。一応ザンザス用の分も用意してあるのだけど、あれを渡すとハート型の行き先が無くなる。


「へえ、じゃあハートのチョコレートは誰にあげるつもりかしら。クロロ?」

「え?」

「えっ?」


 パクが目を丸くした。私の目も丸くなる。パクは挙動不審に視線を揺らすと、恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「なら、自分で食べるつもりなの……?」

「いや、ザンザスに」


 パクが悲痛なうめき声を上げた。ここぞと言う時に役に立たない超直感は無言を貫いており、さっぱり理由が分らない。――もしや、ボスだからクロロを特別扱いするべきだったのか? いや、それはないか。蜘蛛はクロロがとりあえずリーダーなだけで、地位の差はなく平等だ。


「――おや」


 女同士のおしゃべりに重点を置いてゆっくり歩いていたからだろう、先に集会所にいたクロロがこちらへ走ってくる気配がした。そして何故か、それを追いかけるザンザスの気配も。


「二人が走って来ているようさね。荷物持ちでもしてくれたら肩が軽いのだが」

「え、ええ……そうね」


 パクが空を見上げてため息を吐いた。腕が脱力してリュックのショルダーベルトがずれる。


「まだ道は遠いわよ、クロロ……」


 パクの不思議な台詞に私は首を傾げた。ショルダーベルトを戻したパクは曖昧に笑むだけで、その理由を話してくれることはなかった。














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 続くよ!

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