輝々
義理義理本命

 本命の相手が指定されていなかったので、IF版で良いか! と勝手な判断。






 女の子も男の子もそわそわする日、バレンタイン。私はそう言う相手が出来る前に厨房に放り込まれたから、相手が出来るのはまだまだ先のことだって思ってた。


「りょ、料理長。それは」

「え、本命チョコだけど」

「一体どいつだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ料理長のハートを盗んだ奴はぁぁぁぁぁ!」

「憎たら――羨ましい、オレだって料理長のチョコ食べたい!!」

「神は死んだ!」

「イケメンなんだろ、イケメンなんだろぉ!? イケメン死ね、死ね死ね死ね死ね!!」


 厨房がにわかに騒がしくなった。チョコくらいで大げさな――いや、チョコも不味いっていうか、私の作るチョコが明治や森永だとすると、この世界で一般的なのはブルボンだもんね。ブルボンの洋菓子はどうしても二番三番の味だ。お煎餅の類は美味しいけど。


「まあ、ついでになるけど義理チョコを用意するつもりだよ」

「マジすか!?」

「うっしゃあ生きてて良かった!」

「神様有難う、オレ明日にでもグルメ神社に参拝してくる!」


 さっきとは逆の意味で騒がしくなった厨房に苦笑いが漏れる。一流の料理人を目指しているからこそ彼らの舌は比較的ましだ。私だって味の分る人に食べてもらいたい。


「ちょっと待ちなさい!」


 と、そこに現れたのはオーナーだった。控室から出てきたのを見るに、そこでまったりしていたに違いない。暇人め……。


「何ですかオーナー、もう通常業務は終わったはずですけど」

「そのチョコレート、明日レストランで出しなさい」

「……は?」

「なっ! オーナー酷いですよ、オレたちのチョコですよ!?」

「でももへったくれもありません。明日はバレンタインサービスとしてチョコレートを出します」

「理不尽です、オーナー!」

「小梅のチョコレートとなれば食べたがる人間は多くいます。明日の集客はいつもに増して良いことでしょう」

「失礼ですが、オーナー。これは私の実費で購入して、私が加工したカカオです。オーナーに使用用途を命じられるようなものじゃありません」

「明日の朝までにカカオを用意させます」

「無理です。一晩かかりますので」


 一晩ミキサーにかけ続けて細かい粉状にしてるって言うのに、朝に渡されたところで準備できるわけないでしょ。


「りょ、料理長……オレたちのために一晩かけて加工してくれたんですか」

「うっ涙が!! 本命が何だ、手間は一緒だ!」

「料理長の愛に感動した!!」


 料理人達には悪いが、寝る前にミキサーをセットして寝ただけなんだよね。まあそれは言わぬが花ってものでしょ。

 沈むオーナーは無視して、本命とついでの義理チョコの制作に集中する。この場にはいない、猿顔と三人のマッチョの分も忘れずに。





 バレンタイン当日。三時からの休暇をもぎ取った私は、街に小松と三匹のゴリラ達を呼びだした。何故かスーツ着用の三人に首を傾げながら義理チョコをポイポイと渡す。


「バレンタイン、義理だけど味の保証だけはするよ」

「――えっ」


 トリコが目を剥いた。


「何なの、私が作ったチョコが信じられないの?」


 少なくともあんたたちが日常的に食べてるチョコよりはマシだって自負があるんだけど。


「いや、義理……なんだ」


 ココがポツリと零した。


「義理じゃなくて友チョコって言った方が良かったの?」

「(ち)げーし……(ほ)んめーだし……」


 サニーが項垂れた。意味が分らないから小松を見れば苦笑いを浮かべている。一体何なの? さっぱり分らない。


「じゃあ、私はこれからもう一人に渡しに行ってくるから」

「その人も義理だよね?」

「コーメに恋人とかまだ(は)えーし!」

「義理だろ、義理だって言ってくれ!!」

「何言ってるのさ。本命に決まってるでしょ」

「なんてことだ、神は死んだ……」

「お気を確かにココさん!」

「君の顔なんて見たら、ただでさえブルーな気分が更に落ち込むよ。こっち見ないでくれる?」

「酷い!! でもいつも通りの毒舌で安心しました!」

「何なの君、マゾだったの?」

「(ほ)んめーとか許せねーし……コーメに恋とかまだはえーし。ちゅうぼーに籠ってると思ってたし」

「小梅の料理に落ちない奴なんていねぇ……! どっかの馬の骨に小梅の料理が盗られるなんて許せねぇ!!」

「ねえ、帰って良い?」


 嘆きだした三人と小松を放ってその場を離れた。彼らが私の離脱に気付いた様子はない。私の最終目的地はスタージュンなのだ!

 このチョコを喜んで受け取ってくれるとは分っているけど、ちょっと怖い。実はスタージュンの分だけ二日ミキサーにかけていたり。でもそのおかげで満足のいく出来だ。


「スタージュンっ!」


 少し待たせてしまったようで、スタージュンは待ち合わせ場所の噴水の前で街行く女性から秋波を送られている。駆け寄る間に一人が声をかけて撃沈した。


「コウメ!」


 広げられた腕の中に飛び込めば優しく抱き締められる。背伸びして頬にキスをすれば周囲の女から悲鳴が上がる。いや、明らかに待ち合わせですって相手に秋波を送ることから間違ってるからね。


「ハッピーバレンタイン。はい、チョコ」


 ショルダーから取り出した箱を渡す。十五センチ四方で高さは四センチ程。隙間はクッション材で埋めてるから割れる心配はそうない。


「大きいな」

「うん。有難く食べてね」

「ああそうだな、じっくり味わうとしよう」


 ニッと色っぽく笑んだスタージュンが私の腰に手を回し、リードするように歩き出した。


「コウメが食べさせてくれるのだろう?」

「え?」


 なんだかある意味物騒な台詞が聞こえてきて顔を上げた。色気が駄々漏れな甘い顔でスタージュンは言葉を続ける。


「期待している」

「ちょっと、今スタージュンおかしなこと言わなかった?」

「そうか? 変なことを言った覚えはないが」


 ひょうひょうと言い放つスタージュンの脇腹を軽くつねる。


「あーんなんてしないからね」

「なら口移しか。それはそれで良いな」

「馬鹿! 一人で食べて!!」

「聞こえんな」


 スタージュンは私を抱きこむような姿勢でボソリと呟いた。


「愛している、コウメ。お前は私に訪れた、唯一にして最高の食運だ」

「うぅ……恥ずかしい奴」




 そのままとあるホテルの最上階にあるバーの個室で、私は未成年の飲酒をしてスタージュンはチョコをツマミにアルコールを傾けた。


「美味い」

「……二晩かけたから、当然」

「そうか」


 スタージュンが目元を少し柔らかくした。キリリと整っている顔だからその威力はかなり凄い。まだそれに慣れない身としては少しドギマギしてしまう。


「ホワイトデーの返しを楽しみにしていろ。きっと驚く」

「そうなの? なら楽しみに待ってるよ」


 二週間もすればそんなやり取りがあったことを忘れて、スタージュンに十四日に会えないかという連絡が来た。オーナーを脅して無理やり作った三時間、私を待っていたのは――







 一番長い(^p^)リクエストした方のみ持ち帰り可、でも一報くださると有難いです^^
※未成年の飲酒は法律で禁止されています。飲んじゃ駄目よ! でも僕は十代半ばでビール――の泡だけ舐めてたからセーフ! セーフだよ!

2012/02/16

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