輝々流れるチョコ、映像
二月十六日。カレンダーを見てフと思い出した。
「そういえば一昨日、バレンタインだったね」
その場に戦慄が走った――ってのは言いすぎじゃないと思う。凍った空気に驚いて周囲を見回したら、アルビレオさんがマトリックスをしていた。一部の視線はそこに釘付けだ。
「みっかっみっ――じゃなかった、れっいっこっすわぁーん! ギブミーチョコレート!」
「だー! 欠食児童みたいなことするんじゃないわよ!」
ルパンダイブでレーコさんに飛びつくタダオは無視して、様子のおかしいアルビレオさんの声に耳を傾けてみる。
「クイーン・オブ・ロリータからのチョコレート、本命チョコレートを逃してしまうとはロリコンの風上にも置けません逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ! 日付よ戻れっ戻れっ戻れよぉ!」
キャラ崩壊してるみたい。
「ん」
「なんですかジョットさん、その手は」
「チョコレート?」
「首を傾げられても」
手を差し出して来たジョットさんに訊ねれば、用意もしていないチョコレートを要求された。
「ねえサイト、バレンタインって何?」
「あー……女の子が、好きな男に対してチョコレートを贈る日のことだ」
「――何で教えてくれなかったの」
「忘れてた、ゴメン」
なんでだろう、あそこだけ平和だ。顔を赤くしてサイト君の胸を叩くルイズちゃんと、それを照れくさそうに受け入れるサイト君……あそこだけ、平和だ。う、羨ましくなんてないんだからね!?
「あの、ロード様。バレンタインとは一体?」
何故かピンク色――と一部混沌とした青紫色――になった空気に、前世なしの職員が疑問を口にした。
「あー……バレンタインっていうのはね、女の子が男の子にチョコレートを贈る日のことなんだ。三月十四日はホワイトデーでそのお返しをする日で、男の子から気になる女の子に贈っても良いね」
職員さんたちはへぇと何度も頷いた。それがまさか、全世界に広まるだなんて思ってもみなかったよ。
毎年この時期になると一室が甘い匂いで埋め尽くされる。正式名称贈り物保管室、通称チョコの墓場……信者達が贈って来るものだから、一年かけても食べきれない程の量が毎年本部に集まる。それを流星街とかスラムの子たちに振舞ってるからもったいないことにはならないんだけど、一時的に保管しなきゃいけないのが大変なんだよね。
「今年も凄いね」
「年々信者は増えますからね」
この世で聖女を知らない地域はもう無いんじゃないかってくらい広まっていて、神の娘に格上げ――着任?――したことで更に信者拡大の勢いは増した。
「パーティーはもうすぐ?」
「ええ。もう他の用意は出来ていますので、あとはこの追加分のチョコレートを厨房に運ぶだけです」
ダンボール詰めされたチョコレートをキャスターに乗せ、顔は覚えてても名前を覚えてない職員が厨房へそれを持って行く。それを見送ってからボディーガードのツナと一緒に会場へ足を向けた。
「チョコレートが嫌いってわけじゃないけど、あんなにあると思うとうんざりしちゃうね」
「まあ、信者さん達の気持ちなんだから。ね?」
「分ってるんだけどね……匂いで酔いそうになるんだよ」
「まあ、うん。それは否定できないや」
ツナはジョットから数えて十代目のボンゴレボス候補だ。九代目の息子にザンザス君っていう子もいるんだけど、本部の警備のために大人しくしてるのは気が滅入るって言って飛び出しちゃった。ゾルディックにライバル意識を持ってるらしくて「暗殺の任務を全てオレに任せやがれ!!」って言ってるけど、ザンザス君の立ちあげた暗殺組織ヴァリアーの人数の関係もあってそう多くは任せられていない。ゾルディックはサポート体勢が凄いからね。
「じゃあ入ろうか?」
「――うん」
背中を押されて会場に入る。むわっと香るチョコレートの香りに胸やけがするけど、それを見せたらくれた皆に申し訳ないので平常を保つ。――これが全国の支部にライブ放映されていたと知ったのは後の話。
「何で!? ねえ何で!? 許可した覚えないんだけど、ねえ!」
「神の娘になったことですし、ロード様のご尊顔を是非見たいという者が多くおりまして」
「許可は、私の許可は!?」
「だって恥ずかしがるじゃないですか」
「そりゃそうだよ! 分ってるなら言ってよ!!」
「分っているから言わなかったんですよ」
「酷い!!」
リクエストされました方のみ持ち帰り可。でも一報下さると有難いです^^
2011/02/16
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