輝々プレゼントはなーに?
街が浮かれ騒いでる。この普段に増して酷い喧騒は一体どうしたんだろうと思っていれば、明日はバレンタインデーだった。街を流れるラジオでパーソナリティがはしゃいだ声でチョコレートだなんだと言ったお陰で気が付かされた。でも私にはチョコレートを送る相手なんていないし……そうだ、皆に一日フリーの時間をあげよう。まあ、バレンタイン当日に全員をフリーにするのは無理だけどね。順番にだよ。
そうだ! 皆にチョコレートでも一枚ずつ買っておこうかな。
「おい、お袋がバレンタインの存在を思い出したぜ」
シカマルの言葉に緊張が走った。
「どこのどいつだ、ママンにバレンタインなんて言ったのは。殺るか?」
「馬鹿かテメー、ラジオだ」
銃を撫でるリボーンをシカマルは扱き下ろし、この場に集う全員を見まわした。興味なんてないとばかりに寝転がった雲雀以外は真剣な表情で車座を囲んでいる。
「どうしよう、もしお母さんが私達の計画に気付いたら――」
「やりにくくなるね」
「ンー、それはないよ☆」
リナリーとココの心配をよそに、ヒソカは――可愛くないが――小首を傾げニコリと笑んだ。手の中のトランプが音を立てて右手から左手へと移る。
「もう一人のボクはそういうのには鈍感だもの☆ 去年のバレンタインのことさえ忘れてるよ☆」
雲雀を除く全員が去年のバレンタインを思い出した。『ヒソカ』が寝ている間にそれぞれがこっそり用意したプレゼントをメッセージカード付きでテーブルに積んでおいたのだが、一昨年も二昨年もその前も同じようにバレンタインを祝っているにも関わらず、望外の事のように喜んでいた。――もしや、記憶力が悪い……? シカマルは頭の中でその考えを否定する。まさか、そんなわけがあるか。
「もう一人のボクは親だもの、子供から何かをしてもらおうとは思ってないのさ☆ だから自分が祝ってもらうって選択肢が出て来ないんだよ☆」
「ヒソカは愉快犯なのか良い親なのか分らないね」
「好きな人に愛しているって伝える日なのよ、子供から祝っちゃいけないわけがないわ」
「ママンにはオレたちがただ守られてるガキじゃねーってことを分ってもらわなきゃいけねーな……」
「お袋、あれで強情だからなぁ」
「どうにかしてお母さんの意識改革をしなきゃね」
額を揉む彼らにしかし、ヒソカは頭を横に振った。
「ダメだよ☆ もう一人のボクがボク達の計画に気付く要素は減らした方が良い☆」
「でも、それじゃいつまでも子供扱いされるってことだろう?」
ココが眉間に皺を寄せる。
「ボク達がもう一人のボクよりも年下で子供であることに変わりはないじゃないか☆」
「まあ、そう言われればそうだが」
リボーンが面倒そうに顔をしかめた。ビアンキはリボーンに腕を絡ませもたれかかる。
「でも、私はママンと対等になりたいわ」
「体が欲しいって言ってるわけでもないんだし、せめて大人扱いはして欲しいなぁ」
リナリーの言葉に場が白ける。
「お前はまだガキだろ」
「なっ、なんでよシカマル! あなただってまだ十代じゃない!!」
「るせー、バンビちゃんは黙ってろ」
「リボーン酷い!」
「可哀想にね、よしよし」
「それって子供扱いよねビアンキ!?」
「……ハァ」
クツクツと笑うヒソカとため息を吐くココでその会話は締められ、雲雀は薄眼を開けてチラリと彼らを見て小さく鼻を鳴らした。
「まあ、ママンがオレ達を子供扱いすることについては次回に回そう。今回はバレンタインだ、バレンタイン」
「私は薔薇の花束を渡すつもり」
「お袋に薔薇の花束が似合うか?」
「シカマルは黙ってて!」
「オレはスーツ一揃えだな。ママンに似合うのをこっそり探すのはなかなか骨が折れた」
「私はそれに似合うタイとチーフを五本ずつ」
「ボクは匂い消しと香りつき石鹸」
「あら、なんでそんなチョイスに?」
「ヒソカが血を浴びるのが好きだから、ヒソカも困ってただろう? 血の匂いをさせてケーキ屋巡りはしたくないって」
「なるほどな。オレも鉄の匂いさせてコーヒーを一杯と洒落こむ気にはなれねー」
「オレはあれだ、万年筆とノートだ。お袋あれでも日記付けるの好きだし」
「――で、ヒソカは?」
視線の集中したヒソカはにんまりと嗤う。
「ハンターライセンス。これはバレンタインまでに用意できないから、後で渡すことになるけどね☆」
全員が目を剥いた。
「おまっ! 去年の試験で試験官がむかつくって半殺しにしただろうが!」
「それはそれ、これはこれさ☆」
「ずるいぞ、ヒソカ。お前さえ表に出ていなければ去年ライセンスは取れていたんだからな」
「だから、その償いも込めてさ☆ キミ達の協力はいらないよ、ボクだけで取る――邪魔しないでね☆」
「何言ってるの、ヒソカだけで取れるわけないじゃない! また半殺しにしてサヨウナラでしょ!」
リナリーがこの場の全員の思いを代弁した。
「取るよ、今度こそね☆」
この話は終わりだと手を叩いたヒソカに皆黙る他ない――この中でのリーダーはヒソカなのだから。
スゥ、と闇に溶けるように消えていった彼らを見送り、ヒソカは後ろ、雲雀を振り返った。
「ねえ、キミは何を渡すつもりなんだい?」
「どうでも良いでしょ。どうせ明日には分ることだ」
鋭い視線のやり取り。ヒソカはどうでも良いかと軽く笑むと、先の五人と同じように溶けて消えた。
「言えるわけないでしょ……チョコレートだなんて」
考えるのが面倒で、デパートで買ったウィスキーボンボン。あまりに直球すぎたプレゼントの選択に今さらながら恥ずかしさがこみ上げ、雲雀は口を真一文字にした。
リクエスト下さった方のみ持ち帰り可。でもその場合には報告くださると有難いです。
2012/02/16
- 107/133 -
pre+nex