輝々
サ行

 突然だが――オレは実は個人所有の畑を持っている。空間を圧縮する魔法だとかで、外から見ればただの小さな箱庭だが中に入れば四十畳ほどの広さがあるというなかなか便利な代物だ。頭を床にこすり付ける勢いで両親に頼み込み、誕生日プレゼントとして買ってもらった。上にラップをかけていくつか小さな穴を開け、窓際に置いていたらちょうど良い温室になったから、冬場には寒さに弱い観賞用植物を避難させたりもしている。――まあ、主な用途は当初の目的通り農耕なんだが。

 ヨーロッパではなかなか手に入らない日本の野菜――というか、米を育てるためにどれほどの苦労があっただろうか。この箱庭の存在を知ったのは入学後で、入学前から知っていたなら何を捨ててでも買っていたに違いない。まあその話は横に置いておくとして、オレは一年の春にこれを手に入れた。そして始まる初めての農業。イギリスと日本では気候が違うため日本の四季を再現しようと温室の管理に関する魔法の本を読み漁ったし、農業関係の本も取り寄せて読んだ。そしてその結果がこれだ。


「今年も豊作みたいね、シェーマス」

「ああ。オレたちだけなら半年くらいは十分もつだろうな」


 米の大盤振る舞いさえしなければ、オレとジニー二人が食べるには十分な量が収穫できそうだ。日本出身の生徒がホグワーツ内には何人かいるが、そいつらに苦労して育てた米を譲ってやるほどオレの心は広くない。あいつらは親にでも送ってもらえば良いのだから。


「そろそろ広間に行こうか――夕食の時間だ」


 時計を見れば六時半過ぎで、早い者ならもう食べ終えているだろう時間だった。食事をとるのは六時から八時半までの間なら自由のため、今食事している人間もまばらだろう。


「そうね」


 ジニーと一緒に箱庭を出て広間へ向かう。左手にはサボテン、右手はサボテンの針を毟りつつ口に運びつつ。卒業したら各地を放浪――もしくうは逃亡したいと思っているオレは、どこでも育つ野菜について深く深く考えたことがあった。その結果がサボテンであり、今オレが食べているこれに繋がる。本体の大きさは直径三十センチほどで針は太くずんぐりとしており、どちらかというとポ○ンキーに似ている。しかし味は塩ゆでしたスナップエンドウ。小腹を空かせた時にちょうど良いお菓子だ。当初の目的からは離れてしまったが、我ながらなかなか良いものを作ったと思っている。魔法万歳。パリポリと軽い音をさせながら歩いていれば、後ろから声をかけられた。


「フィネガン、ウィーズリー、止まりたまえ」

「はい?」


 ジニーと二人で食べ歩きをしていたのを見咎めたのだろう、スネイプ教授がそこにいた。


「何を食べながら廊下を歩いているのかね? 食べ歩きは勧められたことではない」

「すみません、教授」


 頭を下げ、サボテンを差し出す。


「これを食べながら歩いていました」

「……これを?」

「美味しいですよ、教授!」

「教授もお一ついかがですか?」


 オレは周囲には変人で通っている。そのオレと行動を同じくするジニーも変人扱いされている。カエル型のチョコを食べるよりはマシな感性をしているつもりなんだがな。


「ふむ、では一つ頂こう。――しかし、広間に入り席に着いてからだ。食べ歩きはこれ以降するな、分かったな」

「はい、教授」

「わかりました、教授」



 どうぞご賞味くださいとサボテンを渡し、広間で脂っこい料理を食べた。

 そして、生徒たちの出す騒音に興味のないオレたちは気が付かなかった――スネイプ先生は何かの呪いでも受けたのか、美味しそうにサボテンを食べている。マダム・ポンフリーを呼ぶべきじゃないか、と生徒たちが顔を青ざめていたことに。そしてマダムは呼び出され、教授は無理やり診察を受けさせられた。すみません教授、オレが悪かったです。

 食事の後に十点減点された。














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 なんだかちょっと不完全燃焼な気がする。思い立ったら修正するかと。
2011/09/20

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