輝々
残酷な天使のテーゼ

 セブルス・スネイプは、家へ異物が侵入したことに気が付いた。伊達に長い間死喰い人をしていないのだ、気配やなんやには敏感だ。


「全く――最近多いな」


 ここらが元々治安の良い場所ではないと知ってはいるが、もしもの時には攻撃魔法の使用を許可しているし滅多なことはないだろうと思う。杖を手に裏口から出て前へ回る。一体どこの誰なのか……。


「――っ」


 レイノの部屋は二階にある。当然、覗こうとするなら脚立かなにかがない限り不可能だ――マグルであれば。

 レイノの部屋を覗いているのは学生時代に交流のあった男だった。髪も目も黒く、ハンサムな部類に入るが少し残念さが漂う男、B。Bは箒に跨り荒い息を整えることないまま窓に手を貼りつかせている。


「エクスペリアームス」


 セブルスは迷うことなく呪文を放った。しかしBは始めから気付いていたと言わんばかりにヒラリと避け、口元に嘲笑を浮かべてセブルスを見た。


「なんですか、先輩。羨ましいんですか?」

「誰がだ変態。さっさとここから去れ」


 Bはうっとりした表情をして窓を見やった。


「レイノちゃんは僕の使者に選ばれたんです、素晴らしいでしょう」

「意味が分らん」

「僕の愛の揺りかごで今は眠っているんですよ、レイノちゃんは。ですが、そう! 待たせたりはしません! ああ、早く僕がパパって呼ばれる日が待ち遠しい……」

「さっさと帰れ変人」


 この迸る熱いパトスが、だの少女は神話になる、だのと妄言を吐く後輩にセブルスは頭が痛くなる思いだった。どうしてこの男はこうも道を踏み外したのだろうか? 家庭環境か? それとも生来持っていた性癖か?


「と言うわけで、僕はレイノちゃんを窓辺から覗く権利があるんです!」


 何時の間にやら論理が展開され、Bがそんなことを言いだす。


「屁理屈という言葉を知らんか」

「屁理屈も理屈という言葉なら良く知っていますが」


 誰よりも光を放つレイノちゃんは僕が支えるべきだだのと騒ぐBに呆れかえっていると、レイノの部屋の電気が付きガチャリと窓が開いた。騒音で起きたのだろう。


「ああ、レイノちゃん! 僕のために起き――」

「うっさい」


 寝ぼけたレイノはBに杖を向け武装解除呪文を唱えた。何時の間に覚えたのだ……。


「ふ、ふふ……これも愛の形っ」

「貴様ほど肯定的な人間は滅多におらんな」


 箒から落下したBが大の字で倒れているのを見下ろしながらセブルスは呆れのため息を吐いた。どうしてこの男はこうなったのか、彼には分らない。

- 96/133 -
prenex




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -