輝々
おしえて

 僕は名もなき見守る会会員の一人です。名前? 適当に呼んでくれれば結構、僕は名もなき一会員に過ぎないのですから。原作でも名前が出ない、二次創作でも名前が出ない、つまり本当にどうでも良いモブキャラに過ぎない僕。え? そう言われると聞きたくなる? ふふ……僕の名前を覚えるなんて、記憶の容量を無駄に圧迫するだけですよ。通行人Aとか、村人Bで良いんです。まああえて例えるなら生徒Aですかね。さて、僕の話を聞いてください。

 僕と僕の真友――つまり娘への愛で結ばれた兄弟がその歌を聞いたのは、本当に偶然のことでした。監督生のためお風呂の呪文を知っている真友のおかげで、僕はこっそりですが巨大な湯船を使うことができます。週に一度というあまり多いとも少ないとも言えない頻度ですが、あくまでこっそりとしか使えないためこれ以上は無理でしょう。――その秀に一度の大きな湯船の帰り道のことでした……。


「……君の声は何故、遠くまで……」



 その声がしたのは空き教室からでした。どの授業でも使われていないはずのそこはたしか、二十年ほど前にグリフィンドール生が爆破したせいで変な呪いが付いてしまったという曰くつきで、ドアを開ける度に違う場所に繋がるらしいとのことでした。あ、どこか分る方もいらっしゃいますね。そうそう、そこですよ。

 暗い廊下に流れる軽快なメロディに、僕と真友は目を見合わせました。一体何がどうしたのかさっぱり分りません。


「……の

あの子はきっと僕を待ってるの

教えてレイノちゃん

教えてレイノちゃん

もうすぐ――僕がパパですよ」



 怪しい歌声はなんと我らが娘の名前を平気でちゃん付けして呼んでいました。それだけでも度し難いというのに――なんと、その声の主は娘を拉致しようと匂わせる発言までしたのです。僕たちの怒りは瞬時に沸騰し、普段ならしないような荒々しさでその教室の扉を開け放ちました。それからは、ああ――話すのもおぞましい! あんな、あんな部屋があるなんて羨まし――じゃありません、憎たら――でもない。全く僕たちの視界を奪うには十分すぎる部屋でした。ええ、住めるのならばあんな部屋に住みたいと誰もが思うでしょう、娘を見守り続けている僕の仲間ならば。

 ですが、次の瞬間僕たちは吹き飛ばされてしまいました。廊下に倒れ込んだ僕たちが最後に見ることができたのはドアを閉めようとする黒髪の男の姿のみで……すぐに僕たちは再びドアを開いたのですが、あの部屋には二度と繋がりませんでした。試した限りではジュラ紀、宇宙、異世界、火星、樹海、海中、キリストの処刑の瞬間のゴルゴダ、どこかの国の軍部基地でしたね。

 ああ、あの部屋にもう一度で良い、行きたいものです。二歳当時の娘の笑顔なんて――最高でしたね! あの部屋にもう一度行く方法があるのなら是非教えて頂きたいですよ!

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