シーザーなのはサラダだけで十分 | ナノ

その1.分けあえば重荷も軽い

 役に立たない役人達を更迭して二週間が過ぎた。平和だというか、静かだ。周囲には俺の言うことを唯々諾々と聞く奴しかいないし、反抗的な奴等は皆消えたし。――これだけ聞くと悪い政治の典型としか思えないが、実際のところは少し異なる。

 リストラクションの前に、俺は魔法を使って全ての課を一週間程監視した。サボってる奴ややる気のない奴という給料泥棒を見つけるためだ。腐ったトマト状態の魔法省内だが、もちろん真面目に仕事している奴はいる。そういう奴等だけを残して全員首チョンパしてやったのだ。良い仕事をしたと心底思う。

 が、ここで弊害が出た。残った奴らが委縮してしまい、俺の命令に盲目的になってしまったのだ。恐怖政治にしか見えないことは分ってたけど凹んだ。


「というわけでナイジェル先輩。週休二日を約束しますから、魔法省で働きませんか」

「何が『というわけで』だ、馬鹿者。週休四日だ。それは譲れん」

「働いてる日の方が圧倒的に多いじゃないですかそれ。サラリーマン馬鹿にしないでください」


 日雇い労働に明け暮れていた先輩を見つけられたのは、ひとえに俺の日々積み重ねてきた徳のお陰だと思う。一日一善の積み重ねって大事だよな!――というのは冗談で、『会えないか』という内容の手紙をくくり付けた梟を送ったのだ。


「それに、そんなに休んでいたらジョージ君も『兄さんはちゃんとお仕事してるのかな? お給料の割にお仕事に行ってる日が少ないけど、もしかしてボクのために犯罪に走ってなんかないよね……もしボクのせいで兄さんが犯罪者になってたりしたら、ボクは、ボクはどう償えば良いのっ』とか思いこんでしまうかもしれ」

「週休三日だ。それで手を打とう」


 俺が科学部の部長として誘ったのは魔法薬学の麒麟児と言われたナイジェル・スネイプ先輩だ。マグル出身で年齢は俺の一つ上。俺が五年生の時に母親が病気に倒れて学費が払えなくなり、ホグワーツを退学した。今年七歳になったばかりの弟のジョージ君を養育するため、退学してからは重労働に明け暮れていたらしい。そしてジョージ君が魔力を持っていないせいか先輩は物凄くブラコンで……『ジョージは(一生)私が守る!』と神に誓ったという。結婚しないつもりなんだろうか。

 そしてもう一人、俺の総務部の部長として誘ったのは、アルバイトとの両立で倒れたハッフルプパフの元シーカーで友人のトーマス・ベーカー。動体視力が蠅並みという人智を超えた才能を持つが故に、一日が二十四時間ではなく九十六時間以上に感じられてしまうと言うちょっと可哀想な奴だ。その代わり頭の回転も速いし仕事も早い。そのせいで仕事を任され過ぎて倒れ、退学。


「ナイジェル先輩が科学部の部長なら、俺は?」

「お前には総務の部長を頼みたい。なに、そんなに心配しなくても大丈夫だ――お前がする書類は俺がしなきゃならん書類の三割くらいだから」

「それってかなり多いって言うんじゃないの」

「はっはっはっは、んな多いわけあるか」


 俺が一人でしてる分のたった三割だぜ、多いわけないだろ?


「うわぁ、友達が骸骨になった理由が分ったよ!」

「休め、この馬鹿者が」

「ははは、まだ無理っぽいんだなこれが」


 実は今日で四徹目だったりして。いい加減魔法薬で眠気を誤魔化すのも大変になってきてるんだよな、早く何とかしないとなぁ。

 先ず、魔法省の内部を三つに分けた。闇払い等の犯罪者を取り締まり裁判もする治安部、魔法薬学などの研究関連を担う科学部、戸籍や税金などを一括する総務部。

 闇払いは脳筋しかいなかったから掌握が容易だったが、裁判官が煩かった。法がどうの独裁はどうのと叫ぶばかりで全く役に立たない奴らばかりだったから全員クビにしてやった。こういう時は親父の地位が有難いが、俺を魔法大臣に就かせたのも親父だと思うと素直に感謝できない。

 薬学者とかは研究馬鹿ばっかりだったんで上の首が何に変わろうと気にしない奴らばっかりだった。が、書類仕事を任せるのは無理なのは明らか――というわけでトップにナイジェル先輩になってもらった。ナイジェル先輩には研究だけに集中するわけにはいかない存在、弟君がいるからな。好きなことに関われる仕事なら楽しいだろうと言う判断だ。

 総務部にはくたびれた感じのおっさんが多く、課長や部長は休みを十分以上に取ってるくせに権利を主張するばかりで煩かったが、下っ端は馬車馬の如く……だった。というわけでトップにトーマスを据えて新生してもらうことにした。トーマスは頭の回転が速いうえ仕事も出来る男だが、天は二物を与えてくれないらしくブ男だ。顔の大きさに対して鼻がでかくて目が出目金みたいなんだよな。嫌悪感をもよおすような顔ではないから、愛嬌のある奴としておっさんたちにも受け入れられるだろう。

 独裁マジで大変。気の置けない部下がいないから何から何まで自分で考えなきゃならないし、書類多いし、反抗的な奴等も多いし、問題も山積みだし。


「辞職したい辞職したい辞職したい辞職したい」

「馬鹿者、休め」

「おねんねしましょうね、イネス君」


 トーマスに聞かん坊扱いされながら浮遊呪文で仮眠室に放り込まれ、ベッドに転がった瞬間意識が途絶えた――

 目が覚めて、頼りになる先輩と友人の存在に感動の涙を流すまであと十三時間。




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 魔法省以外に政治的機関が一つもない魔法界ェ……
2012/03/01



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