Star Dust






 女子寮を出てドラコ+αと合流し、新学期最初の授業である魔法薬学の教室に向かう。二年生にあがると授業時間がちょっとだけ増えた。スリザリンは寮監の担当ゆえか他の寮よりも週に一時間半、つまり一単位ほど魔法薬学の授業が多く、今日の魔法薬学はスリザリン単独の授業日だ。他の寮の目がないから好きなだけ親子ができる素晴らしい時間なのさ!


「レイノ嬉しそうね」

「うん、もちろんさ! 新学期早々ダディの授業とか幸先良いよね!」


 アメリア自身もパパっ子だから、私の気持ちが良く分かると頷いてる。

 アメリアのお父様とは以前パーティで顔を合わせてから文通が続いてる。なかなかダンディーなおじ様で、もし私が三十代後半なら必ず堕ちただろうナイスミドルだ。ロシアの純血魔法族の奥さんとは七年前に離婚――奥さんは離婚後、アメリアの三歳上のお兄ちゃんを連れてロシアに帰っちゃったそうだ――して今はフリー。甘い声で『レディー』って呼ばれた時には鼻血出るかと思った。色っぽ過ぎる流し目で死ぬかと思った。

 まだ夏の暖かさが残ってるお陰で、地下の魔法薬学教室はひんやりとしているものの過ごしやすい気温だった。いつもは合同授業の相手の寮と左右に分かれる席も今日は前から詰めて後ろは半分が空いてる。

 セブの目の前の席を確保して満足に鼻を鳴らせば、脳筋じゃないスリザリン生たちがクスクスと笑った。


「レイノのファザコンは変わらないみたいだな」

「そりゃね! 世界一のダディだって自慢したいくらいだし」

「そんなんじゃ、いつまでもパパ離れできずに結婚できないんじゃないか?」

「その時はセブにお嫁さんにしてもらうもんね」


 ドラコの後ろに座ったブレーズ・ザビニが馬鹿にしたようにくすりと笑った。


「知らないのか? 親子は結婚できないんだぜ」

「血は繋がってないもん、問題ないよ」


 ブレーズはきょとんと目を丸くし、ドラコの睨みもあってか肩を竦めて一言ごめんと言った。私はこれっぽっちも気にしてなんかないのに、ドラコは優しいなぁ!

 去年から知ってたアメリアやパンジーはザビニをちらっと目の端で睨んでから私を挟んで身を寄せてきた。


「これだから男って嫌なのよ、デリカシーがないわ」

「女が年上の男を好きになる理由って、年上の方が頼りがいがあってデリカシーがあるからだって聞いたことあるわ」

「ほえー」


 二人の優しさにちょっとほっこり。お姉さんは気にしてないけど、その気持ちは凄く嬉しいよ。

 セブの授業をたっぷりと一時間半堪能した次の授業は薬草学で、レイブンクローとの合同授業。今日はマンドレイクの植え替えだった。パンジーは手の中で暴れ回るマンドレイクを睨み付け、泣き叫ぶマンドレイクの口をギュウギュウと絞って言うことを聞かせていた。赤ん坊の肌が薄緑色であることさえ無視すれば幼児虐待に見えなくもない図だなぁと思いながらパパッと植え替えを終えた。目敏くそれを見たスプラウト先生に加点してもらえたけど、短気にもマンドレイクを殴ってたクラッブたちのせいで減点されて帳消しになった。

 午前中の二コマと午後の二コマまでが二年生の時間割で、学年があがると夕食前に一コマと夕食後にまだ二コマほど授業があったりする。天文学はその最たるもので、夜にならないと意味がない授業だから当然っていえば当然かもしれない。一応二年生は一週間に十七コマが必須、あとはレベルにあった授業を選択する形。一年生の時は必修科目以外の選択はできなかったんだけど、やっぱり二年生になると違うらしい。とはいえ、選択できるのはたった三コマだけなんだけど。

 昼食を取りに広間へ行ったら、いつの間にかドラコの後ろから消えてたクラッブとゴイルがむしゃむしゃとご飯を食べてた。い、いつの間にっ!? これが孔明の罠かッ!?
 ――ネタが通じないから一人脳内で盛り上がる他ないっていうの、虚しいよね。


「いつの間に先回りしてたんだ?」

「姿くらましでもしたんじゃないの」

「こいつらにそんな高等な魔法が使えるわけがあるか」

「それ以前に校内で姿くらましはできないよ」

「え、そうなの?」


 パンジーはデブ二人に関することには全く興味が湧かないみたいで、ドラコの疑問にもおざなりな返事だった。ドラコ以外の男は異性として映らないどころかゴミでしかないのかもしれない。ところでアメリア、ホグワーツで姿くらましと姿現しができないって話は一年生の時に魔法史の時間に聞いたはずだよ。


「でもパパはホグズミードまで姿現しをしたことあるわ」

「ホグズミード村は厳密に言えばホグワーツじゃないからね。校内へは校長の許可がないと飛べないんだよ」

「ふうん」


 ドラコがさりげなくパンジーの椅子を引いた。私とアメリアは正面に座ったから椅子を引けるはずもなく、唯一椅子を引いてもらったパンジーは可愛く微笑み座った。……いつもながら可愛い反応だよね。相手のちょっとした心遣いで嬉しくなれるのは素敵だと思うし。だけど実はこの反応、私がアドバイスしたからだったりする。

 ヨーロッパやアメリカではレディーファーストは当然身につけておかないといけない礼儀で、それを破ると女性の心をいたく傷つけることになる。たとえばエレベーターで男女が乗り合った時、女性を先に出させて自分は後回しにするのが礼儀っていうか義務になる。日本に来た白人女性が、エレベーターで男性に先に降りられたことに衝撃を受けて泣いちゃった……なんてことも起こるのだ。ちなみに実話。で、白人男性が何故日本の女性を大和撫子だなんだ控えめで美しいだなんだというかって言えば、レディーファーストに慣れてないからいちいち有り難がるっていうのが理由の一つにあがる。優先してあげた時にさも当然だって顔をされるよりも嬉しそうに微笑まれる方が嬉しいに決まってるじゃないか。

 とまあ、日本人女性が白人にもてはやされる理由を上げながら説明すれば、パンジーは私の手を振りちぎらんばかりに振って「あんたは大親友よ!」と大喜びしてくれた。あの時は腕がもげるかと思った。


「午後の変身学で今日は終わりだから楽ね。変身学は何をするのかしら?」

「初めは去年の復習だろう。夏休みの間に呪文も何もかも忘れている者もいるだろうし」

「それもそうねぇ」


 ドラちゃんは一年生の時よりも成長したようで、夏休み前までは良く見られた餓鬼臭さがちょっと抜けたように思う。休みの間やりとりしてた手紙では、ルッシーにだいぶん絞られたうえ貴族としての考え方とかを教え込まれたらしい。始めは愚痴ばっかりだったけどだんだんと落ち着いてきたから感心してた。ルッシーもだけど、シシーってかなり教育ママだなぁ。赤裸々に何があったか書かれてたからシシーに対する印象が変わったよ。教育ママゴン怖い。

 パンを一口サイズにちぎってコーンスープに浸しながら食べてるアメリアを見て真似したら手がコーンスープで汚れた。舐めようとしたら正面からパンジーに手を取られて丁寧に拭かれた。パンジーってば私のママか。


「レイノって魔法以外のことは鈍くさいよな」

「し、失礼な! 私は私以上に素晴らしいビーターを知らないよ!」

「そっちじゃないわよ。テーブルマナーとか、そういうことよ。やっぱりナニーがいなかったからじゃない? 自立が早かったからナニーを付けなかったっていうけど、付けるべきだったわ。ちゃんとした作法が身に付かないのよ」


 あ、なるほどそっちね。

 ずっとお箸で生活してたからフォークとナイフがまだ苦手なんだよね。ああいうのは慣れだから、使ってない私の身に付いてないのは当然なんだろう、きっと。


「私って行儀悪いの?」

「違うとは言い切れないわね」

「どっちかって言うとぎこちないわ」


 手を汚すことなくコーンスープ付きのパンを口に放り込んだアメリアも話に入ってきた。


「まあレイノは見た目も幼いし……八歳かそこらにしか見えないから良いんじゃないか? ゆっくり学んでいけば」


 ヴォルディーとかアブたんがフォークとナイフで食べてる中で一人お箸を使って食べてた私が、今更イギリス式テーブルマナーを身につけるように言われるとは。まあ何を言われてもMY箸を使い続けたからね……あの時は日本人だからで押し通したけど、見た目も戸籍もイギリス人の『レイノ』ができないってのは問題だろうなぁ。面倒だけど仕方ないか。


「勉強するよ」

「それが良いな」


 ため息を吐きながら言った私に、ドラコは慰めるような目を向けた。憂鬱だよ。

 まだ昼休みは十分な時間があるし、変身学の教室も広間から近い。食後の散策と称して中庭に出た。デブ二人は未だ食事中のようだから放置――あいつら胃拡張起こしてるんじゃなかろうか。

 いつもながら曇った空。日焼けしようと半裸になってる先輩とか木陰で本を読む物憂げな美少年とか、大きな学校だと色んな人がいる。後者はともかく前者は自重しろと言いたい。

 と、ドラコの視線の先にハリーたち三人組がいることに気が付いた。ドラちゃんってば本当にハリーが好きね! 好きな相手は雑踏の中でも輝いて見えるそうだし、もう君たち付き合えば良いと思うよ!――あ。でもそうするとパンジーが失恋するからやっぱり駄目。今のなし。


「見ろよ、犯罪者のポッターが一年生に絡まれてる。いつ出頭するのか聞いてるんじゃないか?」

「犯罪者だって自覚がないんだから出頭なんてする分けないわ」

「あー、二人とも? ハリーたちはまだ犯罪者だって決まった訳じゃ」

「窃盗と傷害を犯してるわよ?」

「それは否定できないけど」


 ドラコとパンジーは苦々しそうにハリーを見たけど、アメリアは存在さえ無視しているのか興味すらなさそうだ。確かに二人は馬鹿をした――ウィーズリー氏の車を盗み、マグルに目撃されたうえ暴れ柳に突っ込むというどこぞの不良マンガみたいなことをしでかした。中庭から暴れ柳は見えないけど確かボロボロになってるはずだ。盗んだ車で空を飛んだうえ巨木を大破とは、流石の尾○豊も想像できないに違いない。


「写真にサインしてもらえますか?」


 ハリーに絡んでる一年生の、その一言で思い出した。ってか、脳内ウィキが彼の名前を弾き出した。ピピピピピ、ピーン(遊○王のHP減少音)! コリン・クリービー!

 夏休みにセブが案内したマグル出身の少年で、私とセブの時間を削ってくれた憎い仇の一人。原作でも見た名前だから覚えてるぞ……バジリスクをカメラ越しに見て石化する奴だ。私からセブとの時間を取った罰じゃ、やーいやーい! 駄目だ、思考回路が子供になってる。


「サイン入り写真? ポッター、君はサイン入り写真を配ってるのかい?」


 クリービーの言葉を聞いて、ドラコはよほど腹に据えかねたのか低く唸った。ハリーがこっちを振り返り、ドラコを見て顔をしかめた。


「みんな、並べよ! ハリー・ポッターがサイン入り写真を配るそうだ!」


 ドラコは馬鹿にしたように鼻で笑って、パンジーがそれに追随する。


「吠えメールをもらった記念かしら。それともホグワーツ生から自分の顔が忘れられないようにとか。刑務所にはいつ入る予定なの?」

「二人とも……」


 ハリーに悪気はないんだよ!? ただうっかり忘れてたんだ。それに、車を盗むことを提案したのはロンなんだし。おりょ、よく考えるとロンって問題児じゃん! そのうちたばこの味を覚えて、行き先もわからぬまま盗んだバイクで走り出すんじゃないかな。


「僕はそんなことしてないぞ。黙れマルフォイ! それに刑務所ってどういうことさ!」


 ハリーは困惑してる。そりゃ、悪いことをしたかもしれないとは思ってるけど、それが犯罪行為だったってことまでは考えついてないんだろう。まだ十二歳だし仕方ないと思うよ。


「自覚症状のない犯罪者ほど質の悪いものはないわね」

「あー、ハリー? ドラコが言ってるのはフォード・アングリアの盗難とマグルが空を飛ぶ車を目撃してしまったことと、暴れ柳に突っ込んだことだよ。大人が同じことをしたら先ず間違いなく逮捕されるからね」


 パンジーの言葉にむっとしたハリーだったけど、次の私の言葉で音を立てて顔から血の気が引いていった。隣のロンも真っ青な顔でハリーを挟んだ向こうのハーマイオニーに縋るような目を向ける。ロンみっともない。


「僕、僕……」

「まだハリーは魔法族としてまだ一年生だし、まああったとしても厳重注意くらいで済むと思うよ」


 ロンについては知らないけどね! 魔法省に勤める父親を持っていながらこれだけの事件を起こしたロンに果たしてどれだけの罰が降りることやら。未成年だから親が肩代わりするのかな? それでロンに罰が降りなかったのかもしれない。

 ドラコはといえば、『憎きポッター』が煤けているのを見て満足したらしい。これ以上ハリーの顔を見ていたくないとばかりに私達に声をかけて変身学の教室へ踵を返す。


「これであのポッターやウィーズリーも馬鹿な行動を控えるだろう。また魔法界を危険に晒されてはたまったものじゃない」

「でも、あのスポンジ頭にどれだけ残るかしら」

「う、うむぅ」


 否定できないだけに言葉に詰まる。

 背後では復活したコリン・クリービーが再びハリーに猛烈にアタックし、そこにロックハートが華麗に割り込んでいた。あの場に居座らなくて本当に良かった……。





+++++++++
 黙るフォイと書きたかったけど自重した。
2012/06/12

- 63 -


[*pre] | [nex#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -