Star Dust






 ハリーとクィレルのくんずほぐれつ大乱闘、始まるYO!! とか考えてる私は……うん、酷いかもしれないなぁ。向こうは生死がかかってて必死だってのに、私はいわば観戦してるだけ。床に座りこんでため息なんて吐いてるのだ。鏡を見たせいか気分が悪い。あれが確固とした未来だってんなら喜べるかもしれないけど、手に入るかも分からない望みの具現だと思うと疲れがどっと押し寄せる。叶うかも分からないのに、夢だけ見せないで欲しいっての。顔を上げれば石をよこせとニヤニヤ笑うヴォルディー、後じさるハリーの構図。


「バカな真似はよせ」


 ヴォルディー急に醜くなったよね。私がいた時はギリギリ美形時代だったんだろーか。どーなんだろーなぁ、気になる。どうせ親世代に飛ぶらしいし、その時確認すれば良いか。


「命を粗末にするな。俺様に従え……さもなければお前もお前の両親と同じ目に遭うぞ……二人とも命乞いしながら死んでいった」


 したっけ、命乞い。ハリーの命を助けてくれ、この子だけは――ってのは聞いたけど、死にたくない、殺さないでくれとは言ってなかったと思う。流石に三十年前のことだから記憶の彼方だな。


「嘘つき!」


 ハリーが頭を振って否定した。クィレルが後ろ向きで歩き出す……変なの。ムーヌォークができてないあたりなんとなく寂しい。


「胸を打たれるな……」


 ヴォルディーが悪役らしい笑みを浮かべた。


「俺様はいつも勇気を称える……その通り、小僧、お前の両親は勇敢だった。俺様は先ずお前の父親を殺した――勇敢に戦い、抵抗したがな……。だがお前の母親は死ぬ必要などなかった……お前を守ろうとしたのだ。さあ、石をよこせ。母親の死を無駄にしたくなければな」


 ハリーが誰がお前なんかに石をやるもんかって叫んで、私を見捨てて(逃げろって言ったけどね)炎に向かって走り出した。クィレルが振り向いてハリーを追う。分かってたことだけど、ヴォルディーってば悪役だな……。クィレルがハリーを掴んだ。そしてハリーもクィレルも悲鳴を上げる。


「捕まえろ! 捕まえるのだ!」


 悶絶するハリーに、右手首を掴んで苦痛に唇を噛むクィレル。ハリーを掴んだ右手の指は、見る間に火ぶくれしていった。でもクィレルってば従順な家来だね、ヴォルディーに従ってハリーの足を引っ掛けて首を絞めようとした――絞めようとして、焼けただれていく自分の両手に唸るような悲鳴を上げる。


「わが君、これを捕まえていられません……手が、私の手が!」


 なんで呪文を使おうと思わなかったのかが不思議。自分が魔法使いだって忘れてんじゃなかろーか。無言呪文できるくせに、あんたそれでも教師かっ!――セブも魔法を使うの忘れて足で火を消そうとしてたけど、あれは別。


「それなら殺せ、馬鹿が。始末しろ!」


 クィレルがやっと自分の職業を思い出したみたいで、アバダ・ケダブラを唱えようと口を開いた。ハリーの手が伸び、クィレルの顔を掴んだ。


「あああアァ!」


 クィレルが絶叫しながらハリーから転がるように逃げた。


「教授、教授、ああ!」


 クィレルがただれた手で顔を覆った。教授? ハリーがクィレルに襲いかかり、再び上がる悲鳴。


「助けて下さい、教授――小早川教授!」

「――ステューピファイ!」


 失神呪文をクィレルに撃つ。自分の顔が真っ青だろうことは誰に言われるまでもなく分かった……。私は――セブたちの先生に、何年後かは知らないけど、なる。つまりそれは、このクィレルも私の教え子になる訳で。

 灰になりかけてるクィレルを見た。ハリーは気絶してる。霞がクィレルから立ち上り、どこぞへと消えていく――ヴォルディーか。


「どんな顔すれば良いんだ」


 将来教え子として現れるだろうクィリナス・クィレルに、どんな顔をすれば良いんだ?

 クィレルは灰になった。薬瓶を懐から取り出し、入るだけ灰を詰める。その時思いついたのは、それだけだった。涙は出なかった。

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