Star Dust






 職員室に行かなくちゃいけないセブと別れたのが六時間前――まあ、なんということでしょう! 私の目の前には後頭部にヴォルディーを憑依させたクィレル教授が! 私が起きてることに気付いてないみたいだけど、ヴォルディーがどうかは知らん。気付いてないことを祈ろう。アーメン。


「わが君、どうしてレイノ・スネイプを?」


 どうしてこんなことになったかって言えば、寮への帰り道クィレルに会って、お茶に誘われたから。これから突入するんじゃないの、優雅に紅茶で時間をつぶしてどーする!? と思ったけど折角だから誘いを受けてみた――ら、睡眠薬を仕込まれてぐっすり。薬には体を慣らしてるからそこらへんの毒なんて効果半減以下なんだけど、一応効くからついつい四時間ほどお休みしてしまったのだ。

 時計は九時を三十分以上回ってて、あとどんくらい経てばみぞの鏡の間に行くんだろーかと暇で暇で、もう自然な眠りに誘われそうだ。でもそれよりもお腹が減った。夕飯食べてないしなー、今なら脂ギトギトのお肉でも食べられる気がするよ! すぐに吐くだろうけどね!

 誘拐された理由なんてさっぱりだけど、とりあえず聞いてみなきゃ分かんない。でもここで私が起きると、元の物語の流れが変わっちゃいそうで起きるに起きられない。困ったなー、セブ心配してるかなー? はぁ。


「この娘には聞きたいことがあるのでな……」


 後頭部の悪霊、ヴォルディーはかすれた声で答えた。何を聞きたいんだ、さっさと言え。そうしたら安心して眠れるのに。


「そろそろ行くか――クィレル」

「はっ、わが君!」


 クィレルの魔法でふよふよと浮きながら移動。ついでに透明にされちゃって、移動中誰かに会ったとしても気付いてもらえないっぽい。

 眠いわー……ハリーが来るのって何時なんだろーか。さっさと済ませちゃってくれ、ハリー。

 出入り禁止の部屋に着き、三頭犬をハープの音で黙らせて、意外と箒捌きが素敵なクィレルを薄目で観戦して〜☆中略☆〜みぞの鏡の間に着いた。そっと鏡のそばに横たえられたけど床が冷たいよー、風邪引いたらどうするつもりだ。か弱い乙女にこんな扱いして、許されると思ってんのか馬鹿阿呆ボケナスカス。とりあえずとっさに出てくる悪口を並べてみたけど、これじゃあ私って頭が悪い子みたいだ。後悔。


「見える……私が賢者の石をわが君に差し出しているところが……」


 見えるだけじゃどうにもならん。そろそろかなーと言う事で、唸ってみた。


「う……うーん」


 駄目だ、起きるフリの演技には自信がない。これで良いんだろーか。とりあえず騙されてちょうだい!


「――わが君」

「起きるようだな……」


 騙されてくれた! 空気を読める貴方は素敵です――と目を開いて見れば、挙動不審のアラジンが私を見つめてた。気持ちが悪いから止めて欲しい。


「Miss.スネイプ。わが君が貴女に質問があると仰っています――答えなければ命はないと思ってください」


 クィレルは私を冷たい目で見た。あんまり怖くないんだけど、怖がったフリをした方が良いのか……ううむ。


「は……はぁ」


 命はないと思えと言われても、私死なない体だもん。するなら磔の呪文あたりじゃないと駄目だぞっ! 私の気の抜けた返事を恐怖による掠れ声だと思ったんだろーか、クィレルはニヤリと笑った。なんだよ、格好良いじゃないかクィレル。今まではターバンなんぞ巻いて猫背だもんだから根暗にしか見えんかったけど、背筋を伸ばせばなかなかだ。みられる顔だったことに今気付いた。もったいない、この顔なら女性が選り取り見取りどれにしようかな天の神様の言うとおりだろうに。


「答えろ。貴様の母親は――」


 後頭部の寄生虫ヴォルディーが何か言いかけた時、入口の炎がパッと弾けて火の粉を散らした。


「あなたが!」


 ハリーの登場……空気読め! リリーがどうしたってのさ、気になるじゃないか!


「私だ。――ポッター、君にここで会えるかもしれないと思っていたよ」


 クィレルが笑った。いつも思うんだけど、どうしてこれをフレジョの二人が見つけなかったんだろーか。あの二人ならとっくにボーイズ・ミート・ドッグズ――複数形?――やってるだろうに。悪戯に関しては頭の回転が早い二人のこと、喜び勇んで来そうなもんなのにねぇ。


「でも、僕は……スネイプだとばかり……」

「失礼な奴だ」

「セブルスか?」


 私とクィレルの言葉が被った。


「レイノ!?」

「やっほーハリー。こんなところで会うとは思いもよらなかったよ」


 まさか誘拐されるとは思ってもなかったからね。後ろ手で縛られてわざわざ椅子に座らせられてる私を見て、ハリーが目を見開いた。え、もしかして気づいてなかったの? セブを犯人だと思い込んで考えの軌道修正ができなかったあたり近眼気味だとは思ってたけどさ!


「君は少し黙っていなさい、Miss.スネイプ。――確かに、セブルスはまさにそんなタイプに見える。彼が育ちすぎたこうもりみたいに飛び回ってくれたのがとても役に立った。スネイプのそばにいれば、誰だって、か、可哀想な、ど、どもりの、クィ、クィレル先生を疑いやしないだろう?」


 ハリーの顔は見てて笑える。自分こそが正義だ、自分は全く正しいと思ってたんだろうハリーは、信じられないって顔に書いてる。『悪役像』をセブに押しつけて決めつけてたんだから当然か。まあ、セブは『ぼくのかんがえたさいきょうのあくやく』っぽいけどね。


「でもスネイプは僕を殺そうとした!」

「教授って付けてくれハリー、それじゃ私が殺そうとしたみたいだよ」


 私の言葉は無視された。何でさっ! 悔しくて椅子をガタガタさせたらクィレルに睨まれた。くそう、本当に何でさっ! 理不尽!!


「いいや。君を殺そうとしたのは私だ。あのクィディッチの試合で、君の友人のMiss.グレンジャーがスネイプに火をつけようとして急いでいた時、たまたま私にぶつかって私は倒れてしまった。もう少しで君を箒から落としてやれたんだが、それで君から目を離してしまったんだ。君を救おうとしてスネイプが反対呪文を唱えてさえいなければ、もっと早く叩き落とせたんだが」


 動くなと目で怒られたから何もすることがない。暇だ……どうしようもなく暇だ……つまらん。もっとアレだ、呪文飛び交う戦いとか希望。もちろん私は観戦者で。足をブラブラさせてあくびして、仕方ないから成り行きを見守った。――で、質問って何だったんだろうね?


「スネイプが僕を救おうとしていた?」

「その通り」


 だから教授って付けろよハリー。

 だけどそんなハリーにクィレルはわざわざ優しくもセブがいかにハリーを守ろうとしてたか解説してくれ、ハリーの目はますます丸くなる。そして無言呪文でハリーは簀巻きにされた。やーいやーい、セブを疑った罰だ!――空気読んだ方が良いか。ハリー! 大丈夫かっ!

 一人で盛り上がってみたけど、寂しいので止めた。


「ポッター、君は色んなところに首を突っ込みすぎる。生かしてはおけない。ハロウィーンの時もあんなふうに学校中をチョロチョロしおって。『賢者の石』を守っているのが何なのかを見に私が戻って来た時も、君は私を見てしまったかもしれない」


 云々。カクカクシカジカ四角いピ――(自主規制)。超つまらん。展開が分かってる分もっとつまらん。トロールを入れたのは実は俺なんだぜ☆ とか、スネイプの足が噛み切られちまえば良かったのにとか、イラっとくる部分があったけど我慢する。空気を読むのよ、レイノ。


「僕、あなたが森の中でスネイプと一緒にいるところを見た……」


 とまあハリーは呼び方を直そうとしないし、クィレルはクィレルでみぞの鏡を調べ始めてぞんざいな返事だ。つまり私放置の刑。おかしくないか、私を誘拐した意味はあるのか。


「ああ。スネイプは私に目をつけていて、私がどこまで知っているかを確かめようとしていた。初めからずっと私のことを疑っていた。私を脅そうとしたんだ。私にはヴォルデモート卿がついているというのに……それでも脅せると思っていたのだろうかね」


 そんなに鏡と見つめあっても何も出てこないだろーに。『鏡に映る自分が好きなの、まあなんて美しいんだ、O☆R☆E☆』とかそういう趣味なんだったら止めないけどね。


「『石』が見える……わが君にそれを差し出しているのが見える……でも一体石はどこだ?」


 ハリーは芋虫みたいにウネウネして、縄抜けができないことが分かったみたいだ。食いしん坊青虫……。

 セブがジェームズを憎んでるだのなんだのと勝手に話は進み、蚊帳の外のレイノちゃんは暇で暇でならなりません、先生。はっきり言ってどうでも良いっていうか、興味がないというか。賢者の石とかどうでも良いからさぁ……私がここに連れてれた理由ってか質問があるんでしょーがさっさと言え。気になって夜も眠れないよ。


「ねーねー、さっき私に何か聞こうとしてたでしょ。何が聞きたかったのさ?」

「見つけることの方が先だ、黙っていろ。ああ、この鍵はどういう仕掛けなんだ? どういう使い方をするんだ? わが君、助けて下さい!」


 失礼な奴。モテないぞ、レディーをそんな扱いしちゃ。――だから一人身なのかもしらんなぁ。なんだ自業自得か。顔が良くても性格が悪かったらねぇ、うん。


「その子を使うんだ……その子を使え……」

「スネイプ! こっちへ来て鏡の前に立つんだ!」


 ここは普通ハリーだろ、ハリー。何で私なのさ? ガールじゃなくてボーイでしょ? クィレルが縄をほどいて私を鏡の前にひっ立てた。『私は貴方の顔ではなく、貴女の心の望みを映す』――なるべくならこの鏡は見たくなかったんだけどねぇ。実現不可能な望みが映ったら泣いちゃうかもしれない。

 そして私は鏡を見て――笑った。

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