Star Dust






 ハリーが目覚めたのは、あれから三日後の昼過ぎ。見舞いには行かずに花束だけ贈っておいた。ハッフルパフとの試合があったし、面会謝絶の相手にゴリ押しして会いに行くほど仲が良い訳でもないからね。なんかハリーは私と仲良くなりたいみたいなオーラ出してるけどロンがうざいし。


「今日は試験結果の発表だな!」


 試験が終わって一週間が過ぎた今日、ドラコが談話室で私たちと合流するやそう言った。アメリアとパンジーの目がドラコの腰巾着二人に向けられる。当然私の目も二人を見た。だってさ、クラッブとゴイルが留年するんじゃないかと疑うのは仕方ないと思うんだ。


「結果はどこに貼られてるんだ?」

「ホールじゃない?」

「ホールだよ」


 六人(内二人は空気)でホールに向かえば、早朝ってわけでもないし結果を貼った掲示板の前には人だかりができてた。私たちに気付いたスリザリンの一年が興奮のあまり歓声を上げた。名前は覚えてない。


「スネイプ! 君ってばとってもクールだ!」

「どうすれば貴女みたいになれるのかしらね!」


 スネイプと言う名前に顔をしかめながら他学年の他寮生が振り返り、私だって気付いて納得したように頷いた。そりゃそーだ。流石にスリザリン生でも、セブが来たからってこんなに興奮しないよ。背の低い私のために皆が道を開けてくれたおかげで、六人とも楽に結果を見れた。二度目の私からすれば当然としか言いようのない結果――突きぬけて一位。原作じゃハーマイオニーが首位独走だったけど、私はちょっと特殊すぎるからなぁ……私は計算に入れない方向で考えればハーマイオニーが一位だ。


「凄いわね、レイノ」

「いや、アメリアもベスト5に入ってるし凄いと思うよ?」

「レイノそれ本気で言ってるの? 一位と二位の差だけでも二百点もあるのに」


 アメリアがパァって効果音が付きそうな笑顔で手を叩いてくれた。パンジーは眉間に皺を寄せながら口元を歪める。でもアメリアも四位で五位内に食い込んでるし、パンジーは十位、ドラちゃんは七位だ。私の周りには頭の出来が違う人間しかいないみたいとしか思えないよ……転生する前のただの十一歳の私だったら、十位以内に入るなんて無理だっただろうって確信があるもんね。ついでにクラッブとゴイルはギリギリ留年を免れてた。この二人よりも点数が低いって、ネビルはどんだけ劣等生なのかって確かめたくなるよ。

 結果も分かったし大広間に行こうと、人ごみをかきわけて――周りは皆道を開けてくれたけど――掲示板の前から出た。


「――あら、レイノ!」

「ハーマイオニー」


 どうやら今来たらしいハーマイオニーが、私を見つけて声をかけてきた。ロンは後ろで嫌そうな顔してる。私に会ってそんな顔晒すくらいだったら寮に帰れ。まあ、私の後ろのドラちゃんたちも似たような顔してる気がするけどね。それはそれ、これはこれ。


「成績を見に来たの? 私はこれから見るつもりなの」

「そっか、私はもう見ちゃったよ。ハーマイオニーのも見たけど順位はお楽しみと言う事で言わないでおくよ」

「そうなの。ねえ、ハリーが会いたがってたわ。花束のお礼を言いたいって」

「ハリーが退院したらその時会うよ。だから早く元気になるよう言っておいてくれる?」

「分かったわ。じゃあね」


 ハーマイオニーと手を振って別れたと思えば、空気二人以外の全員にジト目で見られた。な、なんだよぅ。


「レイノ、あれはグリフィンドールだぞ?」

「それも貴女を巻き込んだポッターの仲間じゃない」

「それにどうしてレイノがポッターの見舞いになんて行かなくちゃならないのかしらね?」


 順番にドラコ、パンジー、アメリアだ。じとーっとした目がなんだか居心地が悪い。


「巻き込まれたってわけじゃないんだけどなぁ」

「ならどうして誘拐されたのよ」

「うーん――私も良く分かんなかった」

「ポッターに巻き込まれたに決まってるさ」


 ヴォルディーは一体何を聞きたかったんだろーか? 私の母親がどうしたのか……ヴォルディーは私がハリーと一緒にいた赤ん坊だって気付いてるとか? 運命の子供の片割れだと。リリーの娘だろうって確かめたかったのかもしれない。『生き残った女の子』であって良かったはずの私が何故誰にも知られていないか、とかかもね。

 大広間でナルシッサさんのサンドウィッチに舌鼓を打って、セブとのんべんだらりと過ごして、寝る。それを何日か続けて、遂に学年末パーティーがやってきた。




 ハリーは革表紙のアルバムを捲った。ついさっきハグリッドにもらった、両親の写真だ。友人らしき仲の良さそうな三人と肩を組む若きジェームズ、本にかじりついて彼を邪見に扱っているリリー……特にジェームズは数年後の自分の姿のようで、血の繋がりを深く感じる。寄り添う父と母の姿に目がしらが熱くなり、視界が潤んだ。次のページ、次のページと捲ればそこには、お包みを抱いた父と母の姿があった。腕の中の赤ん坊を見下ろしてはまたこっちを向いて、にっこりと微笑んでいる。


「片方は、僕。じゃあもう一人は……?」


 父と母それぞれがお包みを抱いている。二人の赤ん坊。ハリーは『生き残った男の子』、唯一の生存者……。

 ハリーはそれに気付いた瞬間、顔が真っ青になり、体が震えだしたのを止められなかった。兄か、弟か。はたまた姉か妹かもしれない。僕には双子の兄弟が、いた? その子もヴォルデモートに殺された? だって――だって、『生き残った』と言われているのは僕だけじゃないか。アルバムを取り落とす。ああそんな、神様。

 夕方からの学年末パーティーに向かう道すがら、朝気付いたことを何度も考える。もしかしたら、事実を知って僕が傷つかないように、僕に双子の兄弟がいたことは秘密にされたのかもしれない。なら僕はその双子の兄弟の仇も討たなくちゃいけない。だって僕の双子なんだから。

 大広間に入ればグリーンとシルバーで統一されていた。ハリーが医務室に缶詰になっている間にクィディッチの試合が二回行われて、グリフィンドールにレイブンクローが、ハッフルパフにスリザリンが勝ったと聞いたから、元々あまり浮上していなかった気持ちがみるみる下降した。

 席に着くとすぐ、ダンブルドアによる点数発表が始まった。スリザリンは一位を独走して五百五十二点で、グリフィンドールは最下位の三百十二点。差は二百四十点もあって、何があっても追いつけそうにない。スリザリン席からは弾けるような歓声が上がり、ドラコ・マルフォイがレイノに抱きついて、アメリア・ビキンスに殴られているのが見えた。ビキンスが好きってわけじゃないけどマルフォイは良い気味だ。ビキンスはマルフォイを椅子から蹴落とすとレイノを抱き締め、パンジー・パーキンソンがマルフォイを助け起こしている。

 ダンブルドアが落ち着くように言って、エヘンと空咳をした。スリザリンも何事かと静かになる。一体どうしたんだろう……?


「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、そうそう……先ずはロナルド・ウィーズリー君」


 ロンの顔が赤カブみたいに赤くなった。目がうろうろと周囲を見回し、周囲もロンとダンブルドアに注目した。


「ここ近年ホグワーツでは見られなかった、素晴らしいチェスゲームを称え、グリフィンドールに五十点を与える」


 歓声が爆発した。フレッドとジョージが俺たちの弟だ、知ってるだろう!? と周りに叫んでる。マクゴナガルのチェスを破ったんだ、と自慢そうだ。

 興奮も落ち着き静かになった広間にまた、ダンブルドアの声が響く。


「次にハーマイオニー・グレンジャー嬢……炎を目前としながらも冷静な論理を用いたことを称え、グリフィンドールの五十点を与える」


 百点も増えた……レイブンクローには十点及ばないが最下位ではなくなった。もしや、という思いにハリーはダンブルドアを見上げる。ハーマイオニーが嬉し泣きか腕に顔を埋めてるのを横目に見た。


「三番目に、ハリー・ポッター君。その完璧な精神力と並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」


 これで百六十点の加点。でも、あと八十の差は大きい。鼓膜が破れるのではないかという程の歓声に包まれるが、ダンブルドアが手を上げて静かにするよう合図した。


「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かうにも多大な勇気がいる。じゃが、友に立ち向かうのにも同等の勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」


 ハリーはロンやハーマイオニーと立ちあがって歓声を上げた。スリザリンに点数は及ばなかった。でもそれが何だって言うんだ? 差が七十点もある。それがどうしたって言うんだ? だって僕らはやり遂げたのだから。


「最後に! 最後に一人、忘れてはならん者がいる。レイノ・スネイプ嬢じゃ」


 歓声が止み、皆席に着いた。レイノがハリーに巻き込まれて誘拐されたと皆が知っていた。誰もが息を止めたように動かない広間に、ダンブルドアが口を開いた。


「自らを拘束した敵にもかかわらず、死の恐怖を前に助けを求めた者に、救いを与えようとした――その慈愛の心を称え、二十点を与えよう」


 スリザリン席からレイノの姿が消えた。押し倒されてテーブルの影に隠れてしまったのだ。

 ハリーはくすりと笑った。負けたことがこんなに悔しくないだなんて、思いもしなかったから。

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