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「良く眠れたかいのう、ハリー?」
ダンブルドア先生の眼鏡の縁が、キラリと明りを反射した。起きる時にスニッチだと思ったのはそれだったのかな……ぼんやりとダンブルドアの顔を見つめる。どうして彼がすぐ目の前にあるんだろう?――そうだ、賢者の石が! クィレルが!
「先生! 『石』! クィレルだったんです。クィレルが石を持ってます。先生! 早く……」
ガバリと体を起して、ダンブルドアに説明なくちゃと、とりあえず真っ先に思いついた言葉を並べる。じれったさに眉根が寄った。頭の中には言いたいことがたくさんあるのに、口から出るのは同じ言葉ばっかりだ。
「落ち着いて、ハリー。君は少し時間がずれとるよ。クィレルは石を持っとらん」
「じゃあ誰が? 先生、僕……」
だって襲われたんだ。みぞの鏡の間で、クィレルに――そうだ!
「そうだレイノも! レイノはどうしたんですか!?」
「ハリー、落ち着きなさい。でないとわしがマダム・ポンフリーに追い出されてしまう。Miss.スネイプは無事じゃ、安心しなさい」
落ち着けとジェースチャーしたダンブルドアに口を閉じる。ダンブルドアから目を離して周りを見回せばここは医務室だったみたいで、僕のいるベッドの白い周りをカーテンが囲ってた。サイドテーブルには甘いお菓子が山になってて、香りだけでも甘い。
「君の友人やファンからの贈り物じゃよ」
お菓子に目が釘付けになってると、ダンブルドアがニッコリ笑って言った。
「地下で君とクィレル先生との間に起きたことは『秘密』でな。それはつまり、学校中が知っているというわけじゃ。君の友達のミスター・フレッド、ジョージ・ウィーズリーは確か、君にトイレの便座を送ろうとしたのう。君が面白がるだろうと思ったに違いない。じゃがマダム・ポンフリーはあまり衛生的ではないと没収してしもうた」
流石に、このお菓子の山に便座が隠れてたら――面白いだろうけど、衛生的じゃないなぁ。
「僕はここにどのくらいいるんですか?」
「三日間じゃよ。Mr.ロナルド・ウィーズリーとMiss.グレンジャーは君の気が付いたと知ったらホっとするじゃろう。二人ともそれは心配しておった」
「ところで先生、石は――」
話を逸らしたと分かったから、もう一度石について聞く。
「君の気を逸らすことはできんようじゃな。よろしい、石についてじゃな。クィレル先生は君から石を取り上げることはできんかった。わしがちょうど間に合って食い止めた。君は本当に良くやってくれた」
「先生があそこに? ハーマイオニーの梟便を受け取ったのですか?」
「空中ですれ違ってしまったようじゃ。ロンドンに着いた途端、わしがおるべき場所は、出発してきたところだったとはっきり分かったんじゃ。それでクィレルを君から引き離すのに間に合った――」
「あの声は先生だったんですか」
鋭く呪文を唱える声が聞こえたから……。何と言ったかな、ステュなんとか、と聞こえた。きっとクィレルを吹き飛ばしてくれたんだ。
「遅すぎたかと心配したが、Miss.スネイプが良くやってくれた。あの子のおかげで保ったと言っても良い」
「レイノが僕の代わりに石を守ってくれたんですね? 僕だけじゃ手遅れになるところでした。僕じゃもうあれ以上は『石』を守ることはできなかったと思います……」
椅子に縛り付けられていたレイノを思い出す。途中で縄も解かれたけど、いることに気付いた時にはびっくりした。でもそれと一緒に興奮したのもあった。まるで僕とレイノは、運命みたいに引き寄せられ合ってるんだって思ったんだ。だってそうでしょ? 映画や小説でよくあるパターンだ、レイノがヒロインで僕がヒーロー。
それから石は破壊したと聞かされ、僕がしたことはヴォルデモートが復活するのを少し遅れさせただけかもしれないと知った。僕は――僕は、一度きつく目を閉じて、開いた。僕は一度、ヴォルデモートを倒してる。なら、僕はもう一度ヴォルデモートを倒すだけだ。それがたとえどんなに怖い道でも、それが僕の運命なんだと思う。
だって僕はヒーローなんだから……。