Star Dust






 テストが始まった……でもまあ何度も同じ範囲を勉強してる私にとって難しいテストであるはずもなく、サラサラパッパーとテストの空欄を埋めた。この問題の書き方だとこういう答えを期待してるんだろーなーとか、へっへっへ三年生で学ぶ範囲の知識も混ぜたれとか、一年間の総まとめというより遊びみたいな気分で解答した。二度目の一年生ともなればほぼ遊びだよ。試験時間があと十分を切った頃一応の見直しをしたんだけど、私自身が書いた答えにうっとりしそうだった。いかんいかん、ナルシーじゃないよ私は。

 周りの皆は暑いだのなんだのと文句を言って汗をダラダラ流してる。最高気温三十度超の夏を過ごした私からすれば死ぬほどのものでもなし、我慢しろとしか思えない。これはあれか、エスキモーの皆さんが暑い暑いって言って焚火に近寄らなかったって話と同じことかな?

 フリットウィック先生のテストは原作通りパイナップルをタップダンスさせることだったんだけど、どうしてパイナップルなのか、それでタップダンスなのかが不明。パイナップルをタップダンスさせながら、某復活系漫画の霧の守護者を思い出す。厨二病な名前の彼が、らんらんるーんとタップダンス。……つい激しくシェイクダンスさせちゃったのは仕方ないよね。パイナップルなのが悪い。

 初日の試験は三時までで、これといった問題もなく滞りなく終了――だけどこれから一週間のテスト期間中はセブに会えないんだよね。セブ欠乏症だ、セブが足りない、セブを出せ。そう思いながら夕食までの三時間をだれて過ごした。横でパンジーが決死の表情で教科書のおさらいをしてる。哀れだ……愛嬌のあるパグちゃんが目を血走らせて隈を濃くしてんだから。

 どれ、お姉さんが範囲予想をしてあげよう。なにしろ二度目の学生生活だし、私が教授だったらどこを出すかを考えれば簡単に分かる。


「変身学は生物を無生物に変える魔法を復習してれば大丈夫だよ、パンジー」


 無生物を生物に変えるより簡単だし、一年生にはちょうど良いレベルの魔法だからね。それに原作でも嗅ぎたばこ入れに変えるのが試験だったはずだもんね。


「それ本当!? どこからリークされた情報なの? 信頼できる情報元から!?」


 パンジーが身を乗り出して聞いてきたから感だって答えたら舌打ちされた。酷いや! 私の心は深く傷ついたよ……。


「魔法薬学は何が出るのかしらね、レイノ」


 魔法薬学の勉強――つまり魔法薬の作り方のおさらいをしてたアメリアが羽ペンを置いた。


「教えてくれないよ、セブ」

「ええ。だからレイノは何が出ると思う? この中でスネイプ教授の性格を一番分かってるじゃない?」

「あ、そういう意味ね。それならきっと、調合方法が一番面倒なヤツ」

「なるほど、その通りでしょうね」


 忘れ薬かぁ……私も良く作ったよ。アレ飲むと前後の記憶がなくなるんだよね。面倒事は全部アレでなんとかしてきたもんねぇ……アブたんの顔に落書きしてたら途中で起きちゃったから無理やり飲ませて気絶させたりとか、オリオンの洗の……調ky……教育に使ったりとか。私が作った薬ランキングでも量と回数の面において上位に食い込んでるよ。一位は当然禿げ薬だけど。『毛がぬけ〜る』シリーズは作ってて楽しかった……今度作ろうかな。

 それから変身学の試験でネズミを象牙製の嗅ぎたばこ入れに変えて、忘れ薬は店で売っても問題ないくらいに仕上げた。ほら、だってプロですから☆ 筆記試験をPだから席が近いパンジーの背中を見たり、実技試験で苦難の表情を浮かべるパンジーの顔を見たりしながら終えた。もうこれで試験はない――結果発表まで一週間の休みなのだ! 大広間でアメリアが淹れた紅茶を飲みながら、女だけでぺちゃくちゃと時間を過ごす。

 それにしてもさ、試験中に思ったんだけど、パンジーってば最近の子供らしく色恋話とかそういうのが大好きな割に勉強に対してすっごく真面目だよなぁ……やっぱり純血の出身だから悪い点は取れないって意地か? 親に言い含められてるんだろーか。純血の家系で、それもスリザリン寮だもん、悪い点でもとってみろ……恥さらしとかって罵られるのかもね。でも、それにしちゃアメリアが気楽そうだ。


「アメリアは気楽そうに試験受けてたけど、自信あるの?」

「ええ。だって入学前にパパが教えてくれた範囲だったもの。ちゃんと復習さえすれば問題なかったわ。でもレイノは私よりリラックスしてたみたいだけど?」

「パパが教えてくれたのかー、良いね、それ。私はアレだよ、一通り家にいた時勉強してきたからね。アメリアと同じよーに教科書読んだりして復習すれば足りたよ」


 二度目の学生生活だからね☆ つまり言うなれば、旅人算とかツルカメ算を高校三年生が解くような感じだから、分からない方がおかしいんだよ。だってもっと分かりやすい方法を知ってるんだからさ。


「貴女たちが呪われてしまえば良いのに……」


 一週間の試験で精魂尽き果てたパンジーが、テーブルに両肘を突きながら項垂れた。そりゃねぇ、努力努力でここまで頑張った自分の友達二人が、気楽にほんぼのと試験受けたんだから呪いたくもなるわな。ついでにドラコはお家で家庭教師とか付けてたのか、パンジーよりは気力と体力が残ってたみたい。試験が終わったと思ったら中庭に突進してた。


「今度勉強みようか?」

「そうね、お願いしようかしら――新学期に」


 私はハーマイオニーみたいに目立ちたいわけじゃないから、大人しく授業を受ける静かな子なんだよ? でも実技とかがあるとやっぱり目立つんだよねぇ――だって失敗なんてしたくないからつい真面目に呪文唱えちゃって、一回目で成功するんだもん。仕方ないよ。だからパンジーも私の成績は信頼してる……はずだ。

 さてさて、そろそろハリーが歪んだ笑顔のセブとご対面する頃かな? どうしよう見たい。セブが笑顔を浮かべようとして失敗してるの、見たい。思い立ったら即実行、私ってば行動力溢れてる!


「そーだ、私セブに会いに行って来るよ。パンジーは無理っぽそうだけど、アメリアは来る?」


 面白いものが見れるよ。


「いえ、私はここにいるわ。暫く休んだら談話室に戻るつもりだから、帰るなら談話室にね。行ってらっしゃい」

「分かった。じゃあ行ってくるね」


 確かホールでミネルバばーちゃんに会って、直後にご対面だよね。間に合うかな。





「ごきげんよう、諸君」


 いつもに増して抑揚のない言い方を聞いて、声を出さずに腹を抱えた。話しかけたくないのを無理に頑張ってるのが良く分かる。階段を駆け下りてホールへ急いだら、ちょうどセブがハリーたちに話かけたところだった。階段の手すりの影に隠れて笑い声を噛み殺す。あっはっはっはっはっはっは! ひー! 転がりまわって地面を殴りたいくらい面白い。ここ階段だけど。人目がなくて良かったよ……こんなみっともない姿なんて誰にも見せられないからね。


「諸君、こんな日には室内にいるものではない」


 セブとハリー達の視界を外れた場所から観劇する。歪んだ笑顔のセブって珍しいな。写真に撮りたいくらいだ☆ 一か月は笑いのネタに困らないだろーな。


「僕たちは……」


 ハリーが視線をうろうろさせながら言って、でも結局黙った。セブが顎を反らして言う。


「もっと慎重に願いたいものだな。こんなふうにうろうろしているところを人が見たら、何か企んでいるように見える。グリフィンドールとしてはこれ以上減点される余裕はないはずだろう?」


 すごすごと庭に出ようとする三人の背中に向かってセブは言い足した。


「ポッター、警告しておく。これ以上夜中にうろついているのを見かけたら私自らきみを退校処分にする。――さあ、行きたまえ」


 苦節三十一年。やっと本当の傍観フラグが立った! どうぞハリー、三人で勝手に大冒険しといてちょうだい。私は原作を壊す気はあるけど、当事者になる気はさらさらないのだよ。痛い腹筋を抱えつつヨロヨロと立ちあがり、その場を去ろうとするセブに声をかけた。セブが足りない。セブ補給のお時間です☆


「セブっ!」


 階段を一段飛ばしで下りて、最後の七段はジャンプしてセブの胸に突っ込んだ。


「レイノ!」


 セブの歪んだ笑みも見てて楽しいけど、私に向けられる自然な笑顔の方がもっと好き。二週間ぶりのセブは疲れたような顔色で、やっぱり試験期間は教師陣も気を張るんだろーなと思った。


「危ないだろう? 受け止めたから良いものの――階段から飛び降りるのは止めなさい」


 セブは抱きついた私を剥がして、脇の下に手を入れてぶら下げた。


「でもちゃんと受け止めてくれるでしょ? セブ、お茶」


 降ろされたから手を引いて見上げた。セブは薄く微笑んで頷いた。


「行くか」

「うん!」


 その時、私は他人の視線に慣れ過ぎてて、すっかり忘れてたんだ。三つの小さな影がホールに引き返してくることを。そして私に気付いて隠れたことに、全く注意を払わなかったのだ。たとえばここがヴォルディーの屋敷だったなら、私は視線の元を確認しただろう。でもここはホグワーツで、私を見るいくつもの目に慣れてしまってたんだ……。

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