Star Dust






 やっぱり森の中は暗いし不安なのか、ネビルが喋り続けてうるさい。――恐怖をどうにかするための彼なりの自衛なんだろーけど、恐がってない私にとっちゃうるさい以外の何物でもない。


「一応毬みたいに弾んで魔力があるって分かったんだけど、それからも魔法なんて全然使えなくって、業を煮やしたばーちゃんが僕を焚火に突っ込んだんだ」


 うんぬんかんぬん。てかネビルのばーちゃん豪傑だなぁ。実の孫をよく火だるまにしようと思えるよ……私にゃ真似できん。


「レイノ、こんな奴の話聞いてたって無駄さ。こいつがいかに脳なしか分かったってだけじゃないか」


 反論できん。でもネビルは薬草学だけは凄いんだよ? 将来先生になっちゃうくらいだし。これは一種の天才だと思うんだよね、私。天才はえてしてその能力以外の面で大きく欠落した部分があるもんだよ。――あー、でも、薬草学って魔力必要だったっけ?


「ドラコ、そんなこと言うんじゃないの」

「……僕はこんなクズ、嫌いだ」


 ドラコはフン、と鼻を鳴らした。どーやら本気で嫌ってるみたいだ。まあ、純血のくせしてヘタレで自信もなくて頭も悪いからなぁ……同じ純血として嫌なのかも知れない。


「で、ばーちゃんがさ」


 この年頃の子どもだし、テレビとかの話題があるわけでもなし、一番他人の気を引ける持ち話と言えば家族の話以外にない。だからばーちゃんの話になるのは分かるんだけど……分かるんだけども……ばーちゃん以外の話はないのか、ネビルちゃん。


「およ」


 ドラコが抱き込んでた私の左腕を解放した。一体どーしたんだろーか――と思えば、ドラコは私のローブの裾を握り締めてしゃべり続けるネビルの後ろに回り、つかみかかった。ああ、原作通り。

 ネビルは予想外のことに半狂乱になった。そりゃそーだ、恐いからあんだけしゃべりまくってたんだもん。ドモリはおしゃべりだって言う話、本当なんだなぁ。


「ヒイイイイイイイイ!」


 杖から紅い火花を打ち上げ、ドラコの腕の中で自失して暴れるネビルにため息を吐いた。全くドラコも子供っぽいし、ネビルはネビルで肝が小さいし。お姉さんは大変ですよ。子守りする為にホグワーツに来たんじゃありませんよ!

 私はネビルの額に杖先を当てて鎮静呪文を唱えた。どっかイってたネビルの目に正気が戻る。手間かけさせて、もう。ドラちゃん、私だって怒るぞ。


「ドラコ、私はドラコが言うから付いてきたんだよ。そんな悪戯できるくらいだし、じゃあもう一人でも行けるね?」

「え、そんな――レイノ!?」

「行っちゃうの!?」

「また明日、アデュー!」


 私は二人が引きとめるのを背中に聞きながらその場を抜けた。このまま二人のそばにいたらハグリッドとご対面だし、そんなことになったら私も罰則を受けなくちゃならなくなる。そんなの面倒い。


「――うーん、どうせここまで来たんだし……会っていこうかなぁ?」


 私は立ち止まった。学生時代ハグリッドとは一応会えば挨拶するくらいの顔見知りだったし、あの時代でも私リドルの味方をしてたわけじゃなかったから敵視はされないだろーし……ねぇ?


「うん、会ってこ」


 クルリと後ろに向き直り、あの姿へ魔法をかけた。近くに人の目はない――もちろんケンタウルスの目も。


「驚くだろーな、なんてったって十数年ぶりだし。老けてないのを突っ込まれたら――日本人の神秘とでも言っとこう」


 私は道すがら適当に木の枝を拾った。流石に『レイノ』の杖を使ったらヤバいだろ。

 ハグリッドの背中を追ってハリーたちを見下ろす。


「お前たち二人が馬鹿騒ぎしてくれたおかげで、もう捕まるもんも捕まらんかもしれん。よーし、組み分けを変えよう……ネビル、俺と来るんだ。ハーマイオニーも。ハリーはファングとこの愚かもんと一緒だ」


 ハグリッドの組み分け変更に、これが順当だよなぁ、と考える。ハーマイオニーは一応ハグリッドと知り合いとはいえハリーほどハグリッドと身近なわけじゃない。ハリーにとってハグリッドはある種の保護者だし――迎えに来てくれた人としてハリーも一応の信頼をハグリッドに置いているだろうし。でもハグリッドのことだから、初めの組み分けがおかしかったことを理解してないんだろうなぁ。


「久しぶり、ハグリッド」

「――ヒ!?」


 立ってた枝から飛び降りてドラコの後ろに降り立った。ドラコが目を剥いて私を振り返る。恐かった? ごめん、それが目的だから☆ もっとハゲろ、ドラコの生え際。


「誰だ――ああ、鈴緒じゃないか! 久しぶりだな、何年ぶりだ?」

「少なくとも軽く十年は越えてると思うよ」


 ハグリッドの巨体に押しつぶされながらハグされる。ううん? 私とハグリッド、こんなに仲良かったっけ? 廊下で会った時に挨拶したくらいしか覚えないんだけどなぁ。


「あ! この前の――小早川さんっていうの?」


 ハリーが私を指さした。こりゃ、人を指差さないの。


「お、お前は誰だ!? 見覚えのない……ホグワーツの教師じゃないだろう?!」


 ドラコがハグリッドに抱き締められて足の浮いてる私に噛みついた。よほど恐かったんだろーな、悲鳴を上げさせた私が気に入らんに違いない。てか、ハグリッド放せ痛い。そしてあんた、獣臭い。


「この人は鈴緒・小早川だ――この名前ならいくら物を知らんお前でも知っちょるだろう。ああ、あんたがここに来たってことは、この先は安心だな」


 なんだそりゃ。何故にそんな信頼が寄せられてるんだろーか。


「鈴緒・小早川だって――「小早川ですって!?」」


 ドラコの言葉がハーマイオニーに遮られた。あ、ドラちゃんってば嫌そうにハーマイオニーを睨んでら。ネビルは何でか――憧れの目を向けてきてるんだが。一体何なんだ。私が昔したことって言えば、ちょっと魔法薬の研究をしてただけじゃないか。毛生え薬とかでネビルが私を尊敬するとは思えないし、どーしたんだろーか。


「あの鈴緒・小早川!? もし本当に彼女ならもう六十を過ぎてるはずでしょ、どうしてこんなに若いの?」


 ハーマイオニーが急き込むように言えば――ネビルの目が化け物を見る目に変わった。ネビル、あんたってば正直だね! そりゃあ私の見た目はヨーロッパ人感覚から言えば二十代前半だけどね。実際この姿も三十代前半だし、若く見えるのは当然なんだけどねぇ。


「日本人の神秘だよ」


 ハーマイオニーは納得できていないよーな微妙な顔をした。そりゃそーだ。これはハグリッド用の答えなんだから。貴女からの質問は予想外でした。


「あの、小早川さん。僕と以前会いましたよね?」

「ああ、うん。あのヒントの意味は分かったかい?」


 蚊帳の外にされたドラコが不機嫌そうにムスっとしてる。可愛いなぁ、撫でちゃえ。リリカルマジカル☆ ドラちゃんよハゲになーれ☆


「ハリー?」

「あの意味、どういうことなんでしょうか――あの、ヒントの意味は」


 答えちゃヒントじゃないだろ。ハーマイオニーが私とハリーを見比べて首を傾げた。


「答えは――学年末になれば分かる、かな?」


 あと一週間後の話だよ。

 不満そうなハリーからハグリッドに向き直り、じゃあ私帰るわと言おうとしたら。


「なら鈴緒はそうだな、ファングと一緒に行ってくれ。ハリーとそのマルフォイ家の息子と一緒だ」


 え、何で?





 鈴緒・小早川といえば、父上が尊敬する唯一の魔女だ。その魔法薬学に関する知識は膨大で、その他のことへの造詣も深いという。例のあの人の友人なうえ、あの人さえも凌ぐと言われる魔力を持っているらしい。常識に囚われず風の吹くまま気ままに生きている人だと聞かされてきた。その父上の尊敬する人が、どうしてここへ? それに、僕の頭を、撫でた……。


「小早川さん、僕、僕――」


 ハリー・ポッターが親しげに話しかけているのに苛立つ。この人はお前なんかが話しかけて良い人じゃないんだ。さっき繋いだ手を見つめた。半世紀を越えて生きている人のそれとは思えないくらい柔らかくて、ちょっと筋張ってきているけど、滑らかな手だった。象牙色の肌がエキゾチックで黒髪が本当に似合う。身につけているのはローブじゃなくて変な形をした服で、昔聞いた話によればキモノという民族衣装らしい。ポッターに何を着ているのか聞かれてサムエにハンテンだと答えている。キモノじゃなかったのか?


「ちょっと時間食ったからね。――まあついてくことになったのも何かの縁だ、行こうか」


 自然に僕のそれと繋がれた手は、ポッターに対する優越感を感じさせてくれる。ポッターは手を繋いでいない。銀色に月光を反射するユニコーンの血を追って、僕たちは先へ進んだ。


「止まって――見て」


 ファングだとかいう犬が鈴緒さん――父上はこの人をそう呼ぶ――の後ろに逃げ込んで尾を足の間に挟んだ。厳つい顔をしているくせに、恐がりだって言うのは本当みたいだ。あの蛮族はこんな役立たずを僕たちにつけたのか? 信じられない。

 木々が開けた平地に出ようというところで待ったをかけられ、ポッターが鈴緒さんを振り返って不思議そうな顔をした。鈴緒さんの空いた手は小広場の中央、小さな影を指した。あの影は――ユニコーンだ! 血を流し、もう死んでいるのか、静かに横たわっている。


「助けなくっちゃ」

「待って」


 ポッターが平地に踏み出そうとし、それを鈴緒さんが制した。何事かと目を凝らせば、黒いフードを被った――まるで吸魂鬼のような誰かがするするとユニコーンに近付いていた。まるで闇を体現したみたいなその存在に顔が引き攣る。叫びそうになって手に違和感があり見れば、優しく握り締められていた。僕は一人じゃない、大丈夫だと、言ってくれてるみたいだ。でも怖いのはやっぱり怖くて、一歩後じされば枝を踏んだ。

 パキン!

 ビクリと身が竦んだ。フードの誰だかがこっちを振り返って、近寄ってきたんだ。鈴緒さんが逃げなさいと囁いてファングのリードを渡してきて、背中を押された。僕は逃げた。ファングのスピードについていけなくて引きずられたりしたけど、必死に森の入口を目指した。あの巨人に会わなければ――鈴緒さんを残して来てしまったんだ。


「おい……おいっ! 森の番人! ハグリッド!」


 ファングはどうやらあの巨人の匂いに向かって走っていたみたいで、僕はすぐにあの巨人と合流した。


「鈴緒さんが、鈴緒さんがユニコーンを殺した犯人と、犯人と!」


 そして巨人に言い募る。巨人は慌てもせずあの人なら大丈夫だ、と慰めにもならないことを言っていた。役立たずめ!

 その後ケンタウルスに乗せられてやってきたのはハリー・ポッターだけで、鈴緒さんの姿はなかった。

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