Star Dust






 ドラコが浮足立ってたのと今日は土曜日ってことで、ノーバートがチャーリーの元に行く日だって分かった。一応私も何度もハグリッドの小屋に遊びに行ってノーバートと遊んだりしたけど、ロンみたいに噛まれたりはしなかった。弱いものが強いものに従うのは世の常だもんね。


「ドラコ、夜遊びするのを止める気はないけど、見つかって減点だけはされないようにね」


 談話室の暖炉のそばにあるテーブルで、ドラコの淹れた紅茶を飲む。私がチームに入ったことで、クィディッチで獲得した点数が原作と違ってる。少なくとも百点は違うだろーなぁ。だからドラコが酷く点数を落とさない限り、学年末にグリフィンドールに追いつかれる心配はないんだけど――『私』がいるために変わってしまう部分もあるわけで。五十点以上失う可能性がないでもないのだ。


「ハン! そんなヘマを僕がするとでも言うのかい?」

「うん」

「…………レイノ?」

「ドラコはちょっと抜けてるところがあるからね、その内何かでヘマすると思うよ」


 だってミネルバのばーちゃんにドラゴンのことを説明したいなら、チャーリーの手紙を証拠として見せれば良いんだ。ドラコがチャーリーの筆跡を知ってるはずないし、魔法で誰が書いたのかなんて分かるんだ、本当のことだって誰もが納得するだろーに。


「これは友人としての忠告だよ、ドラコ。過度の自信は身を滅ぼす」


 ドラコは苦々しそうに顔を歪めた。唇が一文字になってる。まあ、こういう説教は聞き入れにくいし、むかっ腹が立つもんだ。しばらくの間は喧嘩かなぁ。


「お前にそんなことを言われなくても、分かっている。分かった口をきくな」

「あいよ」


 ドラコはムスっとした表情で席を立った。暖炉の前には今頃になって勉強を始めたらしいクラッブとゴイルが教科書を広げて読んでた。靴で踏むような所に腰を下ろせる二人の感覚が理解できない。


「クラッブ! ゴイル! 行くぞ」


 ドラコは居丈高に二人に命令して、寝室に引っ込んでいった。こういう時、もっと頭の良い方法があったのかもしれない。でも私は思いつけなかったし、変化球を投げて打ち返してもらえるかも分からなかった。そのうち仲直りできたら良いんだけどなぁ。

 ため息を一つ吐いて重い腰を上げ、部屋に戻る。


「ただいまぁ」

「おかえり。どうしたの、疲れた顔して」

「ドラコと喧嘩した……私が悪いんだけどね」

「そう思ってるなら謝れば良いのに」


 ベッドに転がって本を読んでたアメリアに言えば、本から顔を上げてアメリアは口をへの字にした。まあ……うん、ドラコの誇りを傷つけちゃったけど、本当に気をつけて欲しいから謝れないんだよなー。


「まあ、複雑な事情があってですね」


 説明するのも面倒だから、そんな風に言葉を濁しながらベッドに倒れこんだ。明日の夜、ドラコはスリザリンの点数を下げるだろう。短絡的な思考を改めてくれれば良いんだけど……。






 昨晩レイノと喧嘩して、そのままズルズルと仲直りできないままで夜になった。今晩、ポッターたちはドラゴンを塔に持っていく……。レイノが僕の気をそらそうとしてることには薄々気づいてた。だって、僕があいつらを見てるといつも以上に絡んできたからな。あいつは人が良すぎるから、きっとポッターたちに頼みこまれでもしたんだろう。


「先生、誤解です! ハリー・ポッターが来るんです……ドラゴンを連れてるんです!」

「なんというくだらないことを! どうしてそんな嘘を吐くんですか! いらっしゃい……マルフォイ。あなたのことでスネイプ先生にお目にかからねば!」


 下らないことをしたのは僕じゃなくてあいつらだ。あいつらと、それと森小屋の蛮族。ドラゴンを飼うことは違法だ――それくらい僕でも知ってることだ。だってのにあの脳味噌の足りない野蛮人はどこかから手に入れて飼ったし、それをポッターたちはそれを隠そうとレイノまで使った。グリフィンドール生なんかが、誇り高きスリザリン生を使ったんだ! これが許せるか!?

 耳を引っ張るマクゴナガル教授を、痛みで生理的に出て来る涙で滲んだ目で睨んだ。教授――と呼ぶのも嫌になるこの老婆は、僕の言葉を頭ごなしに否定したんだ。証拠だってあるんだ、あのウィーズリーの馬鹿の兄とかいう男からの手紙が。証拠を見ればこの老婆も自分の間違いに青くなるに違いないのに……! あの手紙はどこへ――あ、部屋に置いてきた!

 引きずられるようにしてスネイプ教授の部屋に連行された。マクゴナガルは急かすようなノックをして、スネイプ教授を呼んだ。


「セブルス! 貴方のところの生徒が、脱走しました!」


 灯があるとはいえ薄暗い廊下に、部屋から漏れる明るい光が差した。教授のいつも青白い顔が僕を見下ろした。


「夜も遅くにどうなさりましたかな、マクゴナガル教授。……Mr.マルフォイ、これはどうしたことだ?」

「教授、ポッターです! ポッターがドラゴンを連れて、抜けだしたんです!」

「まだ言いますか、そんな嘘を!」

「少々黙っていて下さるか、マクゴナガル教授? どういうことだ、マルフォイ」


 僕はあのウィーズリーの手があんなに腫れている理由や、ウィーズリーから借りた本の間に、今日ドラゴンを引き渡すつもりだという内容の手紙が挟まっていたことを話した。


「抜け出す嘘にしては悪質です!」


 そう言って僕の言葉を信じようともしない老婆にウンザリした。この老婆はきっと、スリザリン生が嫌いなのだ。グリフィンドールらしいじゃないか。公平さに欠けるな、と僕は思った。教授が紅茶を巨大な瓶から注いで下さった。


「飲みたまえ。もしポッターたちが抜け出しているとすれば、フィルチが見つけることだろう。今その手紙は持っていないのだな?」

「有難うございます教授。はい、手紙は寝室に置いてあります」

「明日持って来い――授業の前にだ。手紙の送り主の名前は覚えているか」

「チャーリー・ウィーズリーと署名されてました」


 教授が片眉を上げて老婆――仕方ないからマクゴナガル教授と呼ぼう――を見上げた。


「たしか――貴女の寮の卒業生だったと記憶しているが、どうでしょう、マクゴナガル教授」

「ええ――ええ」

「たしか、ルーマニアでドラゴンの研究をしているはず、ですね?」

「ええ、そうです」

「ここにいるマルフォイがそれを知るには、彼は無名すぎる。さて、きちんと話を聞きもせず、どうしてマルフォイが嘘を吐いたと思われたのですかね」


 僕は教授を尊敬の目で見つめた。教授は理性的にマクゴナガル教授を論破したんだ! 格好良い! 僕も父上や教授の様な大人になれるだろうか?

 マクゴナガル教授がふさぎ込んだ顔で部屋を出て行った後、教授が僕を振り返り言った。


「その紅茶はレイノがお前に用意したものだ。明日、会ったら礼を言っておけ」


 僕は頬が熱くなるのを感じた。レイノの昨日の言葉――『ドラコは抜けてるところがあるからね、その内何かでヘマすると思うよ』。恥ずかしい、昨日の今日じゃないか。

 僕があの場で手紙を持っていたら確実にポッターたちを捕まえることができただろう。なのに僕が持ってなかったせいで、ポッターが捕まらないかもしれない。レイノはポッターたちから話を聞いてて知ってただろうから、僕の起こす行動も予想がついただろう。恥ずかしい――自分の短所を注意されたからって怒って、忠告を聞かなかった。なんて僕は格好悪かったんだ。レイノ特製の不味い紅茶だろうと思って呷れば、思わない豊かな香りに目を見開いた。


「美味しい……」

「『美味かった』とでも礼を言っておけば良い」


 その後僕は教授に送られて寮に戻り、明日のことを考えながら寝た。話しかける言い訳をくれたレイノが、凄く大人だと思えた。






「――ここにはいないようですが――ウィーズリーも仲間だったのでしょうね! 偽の手紙を使ってマルフォイを誘き出し、問題を起こさせようとしたのでしょう。マルフォイはもう捕まえました。たぶんあなた方は、ここにいるネビル・ロングボトムが、こんな作り話を本気にしたのが滑稽だと思っているのでしょう?」


 僕は今日、マルフォイのそばにレイノがいなかったからいつもより酷い悪戯を受けた。どうしてかは知らないけどマルフォイは苛々してて、金縛りの呪文で縛ってきたりしたんだ。その時マルフォイはハリーたちがドラゴンを逃がそうとしてるって言ったんだ。勇気のない僕には止められないことも、どうすることもできないって分かってたからだろうな。

 僕はスリッパの先を見つめた。ホグワーツの廊下は暗くて――吹き付ける風は生ぬるかったり暖かかったりした。風の温度が変わるたびに悲鳴を上げてた自分がみっともなくて恥ずかしくて、悔しくて。涙が滲んだ。

 ハリーはドラコをだましたんだ、ハリーは勇気がある。あの嫌な奴に一杯喰わせてやろうと、色々と計画を練ったに違いない。だって言うのに、だって言うのに何で僕はそれを本気になんかしたんだろう?……みっともない、ばあちゃんが聞いたら何て言うだろう。きっとただじゃすまないよ。


「呆れ果てたことです」


 マクゴナガル先生が言った。


「一晩に四人もベッドを抜け出すなんて! こんなことは前代未聞です! Miss.グレンジャー、貴女はもう少し賢いと思っていました。Mr.ポッター、グリフィンドールは貴方にとって、もっと価値のあるものではないのですか。三人とも処罰です……ええ、あなたもですよMr.ロングボトム。どんな事情があっても、夜に学校を歩き回る権利は一切ありません。特にこの頃、危険なのですから……五十点。グリフィンドールから減点です」


 呼ばれて、肩が跳ねた。僕が――僕のせいで――グリフィンドールから減点された?


「五十?」

「一人五十点です」


 ハリーが悲鳴みたいにかすれた声で呟いた。マクゴナガル先生が鼻息も荒く言った。


「先生……、お願いですから……」

「そんな、酷い……」


 僕は何も言えなかった。僕は、五十点。でもハリーたちは、二人で百点失ったんだ。考えが変わってきた――これは勇気じゃなくて、無謀っていうんだって思った。悔し涙がこぼれた。馬鹿みたいに騙された僕自身にやり場のない怒りが湧いて、失った百五十点が苦しかった。

 帰り道、僕は下を向いて二人とは一言も話さなかった。もぐりこんだ布団は冷たくて、暖まるまで凍えながら両手をすり合わせた。

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