Star Dust






 お帰りなさい――お帰りなさい、根源へ。

 聞き覚えのある声が響き渡る。それは誰の声なのか、身近な声のはずなのに思い出せないその声。真っ暗だった夢はだんだんと明度を増し、視界の及ぶ範囲に原生林が広がる。大人三人で囲んでも足りない太い幹、平らな床とはほど遠い隆起した地面、広葉樹の隙間からこぼれ落ちる木漏れ日……。


「……、サラ……」


 『私』は人を探しているようで、誰かの名前を呼ばいながら森を歩き回っていた。おかしい……いつもここら辺にいるはずなのに。奥に行ったのだろうか、と『私』は首を傾げる。

 首に巻いた蛇はまるで襟巻きみたいに大人しく、『私』はその蛇を撫でながら歩いた。


「んもう、一体どこをほっつき歩いてるんだろうね。そう思うでしょ?」


 『私』を手伝おうというのか、鎌首をもたげてキョロキョロと周囲に視線をやっている蛇に『私』は話しかける。

 チロリと頬を舐められ笑い声を上げる『私』。


「くすぐったいよ」


 蛇の鼻先に鼻を擦りつけて『私』は笑む。


「こんなに可愛い弟を置いて遊びに行くなんて酷いお兄ちゃんだよねぇ。見つけたら文句言ってやろうね」


 木漏れ日がキラリと視界を真っ白にした、その次の瞬間、私は騒がしい目覚ましの音で目覚めていた。






 今日はセブと一緒にダイアゴン横町に買い物に行くから早起きしなきゃいけない。そのために設定しておいた目覚まし時計だけど、何かを暗示していそうな夢を邪魔されたのは困った。気になるじゃないか!

 不完全燃焼っていうか、良いところで邪魔されたせいでどうしても下降気味の機嫌をどうにか根性で平行線にまで持ち上げる。ダイアゴン横町行きたくないわぁ……。

 コーヒーとトースト、カリカリに焼いたベーコンに目玉焼き。誰が用意してもだいたい同じ味になる朝食を腹に収め、朝から機嫌が悪い私に困惑しているセブに仏頂面のまま抱きついて姿現しを待つ。


「どうした、レイノ」

「……夢見が悪かった」


 普段に増して優しい声で聞かれた。顔を見られたくなくてセブの腰に頭を擦りつける。


「今日の買い物は止めるか?」

「やだ行く」


 セブに買い物全部を任せるなんてことできないし。二人でダイアゴン横町に行ける機会だって少ないし。


「気分が悪くなったら言うのだぞ」

「うん」


 ――あのまま気分が悪いことにして日付を改めれば良かったと、本気で後悔することになるとは、その時の私は気付いていなかった。だってロックハートのサイン会の日だったのだ。せめて次の日かそれとも前日か、運命ってのはままならない。




+++++++++
久しぶりに本編の純粋な更新(^p^)
2012/04/07

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