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スイカバーの後に緑茶淹れて飲んで、姉夫婦に出すつもりだったらしい最中を食べた。大丈夫、最中は八個入りの箱だから。狭いベランダから晴れ渡る青空を見上げながらまったりしてたら、魔法の気配がした。えー、日本に来て魔法かよと思ったら、ちょうどこの部屋の前に誰かが姿現しをしたらしい。ちょっと違う感じがするけど姿現しっぽい魔法、のはず。
ピンポーン。
「あ、姉さんだ」
前は間にアメリカンを挟んでたから名前で呼び合うほどにはならなかったけど、スイカバーと最中の間に呼び捨てにし合うまでになった。あー、もう一時間も過ぎてたのか……。
「私いて良いの?」
「じゃあ鈴緒はベランダでスイカバー食べてる?」
「それ本気?」
「いいや」
今出るよ、と明良が返事してドアを開けた。カードキャプターのともよちゃんっぽいのと百目鬼をもっとスマートにした感じのカップルが並んで立ってて、部屋にいる私を見て目を丸くした。
「久しぶりね明良――ところでそこの方は彼女?」
「なら早く紹介しろ」
「違うよ?!」
明良がぶんぶんと手を振った。私もめいっぱい頭を振る。心の恋人はセブだから無理。
「初めまして。小早川鈴緒と申します。今日は明良君へ連絡もせずに遊びに来てしまって――お姉さん夫婦が来るまでと言って遊んでいたんです」
「姉さん、彼女は去年知り合った人で、イギリスに住んでるんだって。鈴緒、これが姉さんとその旦那さん」
「明良の姉で、日向陽菜と申します。初めまして」
「日向正輝だ、よろしく」
「よろしくお願いします、えっと、陽菜さんと正輝さんとお呼びしても?」
「構わないわ」
「名字だと紛らわしいからな」
話してるうちに呼び方が陽菜ちゃんと正輝君になった。同年代として同年代の人間と話すのなんて何年ぶりだか……あ、やべ、涙が出てきた。
「ね、鈴緒ちゃんはイギリスで何の仕事してるの?」
「えー、あー」
陽菜ちゃんが首を傾げながら訊いてきた。正輝君は神主をしてるそうで、陽菜ちゃんは巫女さん。無職ですなんて言えないよねぇ。でも仕方ないんだ! だってまだ十一歳だもんね!!
「ケルトの文化を調査したり――」
てかケルトの魔法とか学んだり研究したり。
「古文書を解読したり――」
ルーン文字読んだり。
「星を観察したり」
天文学とか星占いとか。
「凄いっ、考古学者なのね!!」
「まあそんな感じ」
肯定しなくて良い日本語よ有難う。
「まるで魔法使いみたいね、ね、正輝?」
「だな」
「あっはっは、実はそうなんですよー、私イギリスで魔法使いやってます」
冗談のつもりで言ったはずなんだけど、予想外な反応が返ってきた。
「あらやっぱりそうなの? じゃあお揃いね、私たちも魔術師なのよ」
ね、貴方、と陽菜ちゃんが正輝君を振りむいた。正輝君も頷いてまさか同業者だとはと答える。えー。
「今日ここに来るのも魔術で来たの。だから時間ぴったりだったでしょ?」
「イギリスの魔術というのが気になる。教えてくれ」
えー。